■もしも「接触恐怖症×対人恐怖症」だったら  2007/03/23
それから歩いて赤西の住むマンションへと向かう。
そこは病院の直ぐ近くにあるマンションで、時間が6時過ぎだということと、閑静な住宅街が立ち並ぶ場所でもあったことで人には会わずに帰ることが出来た。
7階の赤西の自宅へと向かうのに、エレベーターは使えず、階段で上る。
いくら赤西に対してさほど恐怖心を抱かないと言っても、密室になるエレベータに乗る勇気は亀梨には無かった。
対する赤西も、狭い空間に人と一緒にいることは出来ず、自然階段へと足が向く。

「お前の恐怖心は、何に反応するんだ?」
「...え?」

階段を上りながらの言葉。
どんどん上っていく赤西の表情は、前を向いていて亀梨には見えない。

「病院で、お前は“大人”に反応する、と聞いた。」
「う、ん...
 “大人”はダメ...
 あと、誰かに触られるのも、近寄られるのも、ダメ...」
「じゃぁ、人が近くにいるのは全般的にダメなんだな?」
「うん...
 外も...出れない...」
「そうか。」

赤西の一言で、この会話は幕を閉じ、階段は7階まで上りきることが出来た。
6時過ぎということで、どこかの家庭の夕飯の匂いが漂ってくる。
一家団欒しているような、笑い声もどこと無く聞こえてきて、二人とも、もう縁の無い空間の音が耳に響く。
互いに無言で、角部屋の前で赤西の足が止まった。
そして同じタイミングで、亀梨の足も止まる。
開いた距離が縮まらぬまま、赤西は一言、

「ここが俺ン家。」

と告げて中へと入っていった。
少し間を空けて玄関へと歩み寄る亀梨は、深呼吸をして、恐る恐るドアノブを掴んだ。
意を決してドアを開けば、赤西の姿はどこにも見えない。

「お邪魔、します...」

短い挨拶を告げて、靴を脱いで履けと言わんばかりに出されているスリッパに足を通した。
ペタペタと、スリッパが床を踏む音を響かせながら廊下を歩く。
正面の突き当たりの部屋に足を踏み入れると、そこは対面式のキッチンのあるリビングだった。
その中央に置いてあるローテーブルに裏が白紙の広告を広げ、何かを書き込んでいる赤西がいる。
近付くことも出来ない亀梨は、黙ってそれを見ていた。

「コレ、部屋の間取り。
 取り敢えず、お前の部屋は俺の部屋から遠いところにしたから。」
「.........」
「明日になれば病院の方で色々要るモンとか持ってくるだろう。
 どっちにしろ無理だと思うが、コレが俺のリハビリを兼ねていようがお前と馴れ合う気は無い。」
「う、ん...
 それは俺も、同じ。」

しっかりとした、拒絶の色が瞳に浮かんでいたのは、果たしてどっちだろう。
互いに、強い意志の光を宿した光は交差され、こうして同居生活はスタートした。







同居生活がスタートして、早くも5日が経過しようとしていた。

亀梨は、赤西について解ったことが1つだけあった。
ソレは、彼が高校に通っているという事実。
確かに、人に触れなければ普通の生活が送れる彼は、亀梨と違って学校に通えるだろう。
だが、何故人を拒絶する雰囲気を醸し出す彼が学校なんて通っているのだろうか。
それが亀梨には解せなかった。
学費や、この家にかかるお金など、全てにおいて亀梨は知らない。
たかが期限付きの同居人、それも、互いに関わることを良しとしていない者に、わざわざ教えることでもないのは亀梨も解っていたが、気になるものはやはり気になる。
聞いてみようかと数度思ったが、互いに接触を拒絶している相手に自分から近付くことも、近付かれることも無いので、機会がなかった。
そうして、今日もまた聞けずに過ぎていく。

赤西は、亀梨について解ったことが1つだけあった。
ソレは、夜中に魘されていること。
ずっとそうだったのかは知らないが、たまたま夜中にトイレに立った日、静まり返った部屋に亀梨の苦しそうな喘ぎ声が聞こえてきたのだ。
何度も、イヤだ、もう止めて。を繰り返し、きつく瞑られた目から涙を流していて。
気付いたら、赤西は夜毎、亀梨の部屋の前に足が向くようになった。
何をするでもなく、亀梨の部屋のドアに背を預け座り込み、響く音を聞くだけ。
そうこうして、亀梨と同居し始めて5日経つ今日、赤西は、亀梨に徐々に惹かれていることに気付く。
何が、どう、という明確なことは解らなかったが、夜中に魘される亀梨に気付いてから、自分の感情に若干の変化を感じていた。
そうして、今日もまた亀梨の部屋の前に足が向く。
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