■もしも「接触恐怖症×対人恐怖症」だったら 2007/03/23
コンコン...
礼儀としてノックを2回してみても、中から返事は返ってこない。
気付いているのか、いないのか。
あの様子ではどちらかわからないが、取り敢えず、入らなければ何も始まらない。
相手に触らなければ大丈夫。と若干早鐘を打つ心臓の鼓動を無理やり押し込めながら、ドアノブを手にする。
微かに音を立てて開いたドアから、真っ直ぐ先に椅子に座った亀梨の姿が見えた。
先ほどから変わらない格好で、どこかを見つめている。
沈黙の中に、扉を閉める音が響くも、また音が無くなった。
声を先に発したのは、意外にも亀梨の方だった。
「お前...だれ?」
「赤西、仁...
お前と同じでココの患者。」
「ココの...?」
赤西の声を聞いて、年が幾分か若いと感じたのか、ゆっくりと亀梨は身体の向きを変える。
その2対の瞳は、中々赤西を視界に入れようとはしなかったが、同じ患者ということを言うと、戸惑いがちに視線が赤西に固定されてきた。
未だ少し泳いではいるが、確かに赤西を見た亀梨は、取り敢えずは赤西に恐怖心を抱かないようだ。
そう理解した赤西は、話を続けるため、部屋にあったもう1脚のイスを動かし、亀梨と対面するようにして座る。
距離を置いたのは、亀梨のためか、自分のためか。
どちらか解らないくらい距離をとって座った赤西は、一つ深呼吸してから口を開いた。
「ココのお偉いサンの意向で、今日からお前と暮らす事になった。
俺にも、お前にも拒否権は存在しない。
荒療治のリハビリだと思えばいい。」
「お前と...暮らす?
どこ、で?」
「俺の家。」
「っ!
む、無理...ヤダ...っ!!」
先ほどまで普通にしていたのだが、何か話にきっかけでもあったのだろう。
カタカタと、距離を置いている赤西にも解るくらい亀梨が震え始めた。
「い...っ、いか、行かない!!
お、れ...、イヤだ!!!」
「お前、俺の話聞いてたか?
俺たちには拒否権なんてないんだ。」
「っ、けど...っ。」
「要は俺がお前に近付かなければ良いだけの話だろう?
俺は『接触恐怖症』だから頼まれたってお前に近づけない。
だからこそ、俺がお前の、お前が俺の荒療治の相手に決まったんだ。」
ガタガタと、座っている椅子すらも音を立て始めるほどに震えだした亀梨は、自分を守るように身体を強く抱きしめている。
肩を掴んでいるその手は、力を入れすぎで白くなり始めていて。
こういうとき、どう対処していいのか専門家でもない赤西には到底わからない。
だから、自分に言い聞かせるように、言葉を並べた。
淡々と、お前なんかには興味が無い。とでも言うかのように。
言うべきことは言い切った、とばかりにそれ以上口を噤んだ赤西は、何をするでもなく震えている亀梨を見やる。
赤西の言葉に落ち着いたのか、亀梨の震えは次第に治まりつつあった。
若干瞳が潤んで、前髪が額に張り付いていたが、冷静を取り戻したと見なし、赤西は立ち上がる。
スタスタと、扉の前まで歩き、後ろを振り返った。
無表情を貼り付けたまま、亀梨を見れば、その視線の意味を察したのか、亀梨もイスから立ち上がり数歩足を動かす。
扉を出て行く赤西に、亀梨はそれなりの距離を保ちつつついていった。
時々は立ち止まり後ろを振り返る赤西に、一定の距離を保って歩く亀梨も同じタイミングで足を止める。
数回繰り返されるその行動に、亀梨がきちんと後ろにいるか確認しているのかと思っていたが、病院を出るまでに誰にも会わずに済んだ事に疑問を持った。
もしかしたら、誰にも会わずに済む様に配慮してくれたのではないのか、と。
亀梨と違い、人にさえ触られなければ平気だという赤西なりの不器用で解りにくい優しさに、亀梨は先ほど抱いた恐怖心が少しだけ、薄れていくように思えた。