■もしも「接触恐怖症×対人恐怖症」だったら 2007/03/23
「赤西。
お前に任せたいことがある。
付いて来なさい。」
傲慢にも白衣の男は赤西と呼ばれた少年を言葉一つで連れ出した。
表情一つ動かさず、何も物言わぬ赤西は、それでも大人しく男の後を追う。
白い、何の穢れも無い無垢な色をした廊下を歩かされ、男は一つの部屋へと入った。
続いて入った赤西は、中の部屋を見て僅かに眉を顰めるも、あまり動かない表情にソレは表われなかった。
何の変哲も無い部屋なのだが、入り口入って直ぐの左側の壁が、ガラス張りにされている。
向こう側には、椅子に座らされた、赤西と対して年は離れていないだろう少年がこちら側を向いていた。
明らかに何も見ていないだろう瞳は、それでも赤西の方を向いている。
「向こうからこちらは見えていない。
所謂マジックミラーというやつだ。」
淡々と、話し出す白衣の男。
彼は、この建物の管理者で一番位の高い男だ。
ココは、何らかの原因で心を閉ざしたり、精神的に障害のある人などを診るための精神科の病院。
赤西も、そして向こう側にいるあの少年も、この病院に入院、または、通院している患者という事になる。
あることがきっかけで、人と触れ合うことが出来なくなった赤西は、この病院の通院患者だ。
症状を言葉で表してしまえば、『接触恐怖症』という一言に尽きるのだが、“過去のトラウマ”から人を信用しない赤西は、人に触らなければ普段の生活を送れるので、カウンセリングやリハビリを兼ねて月2回程度訪れる。
今日はそのどちらでもない用件で来院を余儀なくされた。
理由は聞いていなかったが、向こう側いる人間に関係があるのだろう。
ざっと辺りをつけ、白衣の男に視線を向けた。
「彼の名前は亀梨和也、年はお前の1個下で16。
ここにいる理由は“過去のトラウマ”による『対人恐怖症』」
「.........」
「私の言いたいことはわかるな?
亀梨は他人、それも男女問わず大人を視界に入れるだけで極度に恐がる。
ここの職員は皆古いのばかりだからな、下手にカウンセリングしても恐怖を煽るだけで適任者がいない。
その点、お前は年が近いし必要以上亀梨に近付かない。
3ヶ月間、お前のところで亀梨と一緒に暮らせ。
コレはお前のリハビリも兼ねている。
解ったら隣の部屋へ行け。」
言葉を連ねるだけ連ねて、白衣の男はその部屋から出て行った。
残されたのは、赤西ただ一人。
赤西に拒否権なんてものは存在しない。と言わんばかりの男の態度。
だが、それも事実なので致し方ない。
荒療治になることは目に見えているこの方法だが、10年間、通院し続けている赤西には普通のやり方では効果は無い。
加えて、亀梨の恐怖対象が“大人”というところにも相手を年若い者にする必要があり、一石二鳥ということで今回こういう方法が取られる事になったのだ。
他人にさえ触れなければ普通の人と変わりない生活を送れる赤西だが、大人を見るだけで恐がる亀梨は、今この世の中で生きていく術が無いと言っているのも同然で。
部屋のイスを引き摺って、ガラス越しに亀梨の前に腰を落ち着ける。
マジックミラーのため、向こうからは見えていないと言っても、こちらからはしっかり見えているわけで。
赤西は亀梨を観察することから始めた。
“大人”に反応するからと言って、赤西に反応しないという確証はない。
だから、この部屋の特性を利用して無遠慮に亀梨を見続けた。
顔は中世的に綺麗に整っていて、若干長めの髪はストレートに真っ直ぐ伸びている。
何も映していないような亀梨の瞳は、他者を拒絶する鈍い光が灯っていて、『対人恐怖症』からか、赤西同様人を信用しないように見えた。
人によって受けたトラウマで『対人恐怖症』になったのだ。
人を信用しなくなっても、無理は無い。
隅々まで見尽くした赤西は、イスから立ち、その部屋を後にした。
隣の部屋へ、行く為に。