■もしも「カメラマン×モデル」だったら  2007/03/20
色々な機材に囲まれて、無機質な機械と対峙する瞬間。
眩いばかりの光を幾つも浴びて、表情を作る。
時に楽しそうに。
時に妖艶に。
時に切なそうに。
けれど、そこに感情なんてものは、入り込む余地は無く。
他人に向ける表情は全て、感情と直結しないものばかり。
ただ、言われるがままに、塗り替えていくカオ。
様々に映り変えるその表情は、人に魅せるだけのもの。





「ダメ。」
「は?」
「今のお前じゃ話になんない。
 帰れ。」

最近紙面を賑わす人気モデル――亀梨和也の、1st写真集のための、撮影。
随分前から上がっていた企画で、今日初めてカメラマンと対峙し、写真を撮ることになっていた。
相手は、腕の良い、妥協知らずのカメラマン――赤西仁。
和也はのっけからダメ出しをされ、所要時間2分という短さで今日の撮影は無理やり終了させられた。
ただ、いつもどおりカメラに向かって笑顔を向けただけなのに。
シャッターを切ることなく、仁の手はカメラを早々にカバンに仕舞ってしまった。

「あ、言っとくけど。
 日を変えてもお前の表情に感情が出ねぇ限り、俺はシャッター切らねぇからな。
 現像液も印画紙もタダじゃねぇんだ。
 今のお前なんて、撮ってもムダ。」
「っ!!!」

ダメ出し。なんてものじゃない。
モデルとしての和也を根本から否定するような言葉を吐いて、仁は撮影所を後にした。
普段ならば、他の人間でごった返す撮影所だが、仁が和也以外の人間をその場にいさせるのを是としなくて。
だから、残されたのは、和也一人。
人気モデルということに、天狗になっていた訳じゃない。
けれど、根本から否定された和也は、混乱の中に明らかに仁に対しての怒りを覚えていた。




「何なの、あいつ!!!」
「あれ?
 カメ、今撮影じゃなかったの?」
「ピィ!!!
 聞いてよ、あのカメラマン、いきなりダメ出ししてとっとと撮影切り上げやがった!!!」
「は?
 何で?」
「知らない。
 『今のお前なんて、撮ってもムダ』とまで言いやがって...マジムカつく!!!」

あの後、和也も撮影所を後にし、次第に燻る怒りの熱を持て余していると、同じモデル仲間の山下智久――通称ピィと廊下で出会った。
和也が写真集の撮影をしていることを知っている智久は、無表情で廊下をずかずかと進む和也にきょとんとした表情で話しかけると、怒りの形相で近くの空いていた部屋へと押し込まれた。
いきなり、爆発したかのように怒声を上げる和也を見て、話を聞く智久。
普段、和也の笑っている表情しか見たことの無かった智久には、感情のまま怒鳴り散らす和也は初めてで。
唖然とした表情で、拳を固く握る和也を見るほか無かった。
和也はいつも感情を表に出さない。
付き合いの長い智久でも、ココまで激情を顕わにする和也は今まで一度も見たことが無く。
いつも、当たり障りの無い笑顔と言う仮面を被って、カメラの前ではカメラマンの要望どおりの表情を、向けている。
そのカオは、たとえ作られた物だとしても、絵になる良い出来のものばかり。
だからこそ、『人気モデル』なんていうレッテルが着くくらいで。
それなのに、赤西仁は和也の表情にケチを付けたらしい。
そう智久が判断すると同時に、和也の鋭い一喝が飛んできた。

「ピィ!!!
 聞いてる!?」
「聞いてるよ。
 で?
 そこまでお怒りの和也クンは明日の撮影、どうするつもり?」
「どう、って...」
「だって、明日も明後日も、撮影あるんでしょ?」
「...それ、は......」

写真集の撮影は、ロケなどを含めて、1週間くらい続く予定なのだ。
そのことを智久が聞けば、和也はだんまりを決め込んでしまう。
和也だって明日も明後日も、その先も、撮影が終わらない限り、仁と顔を合わせることになると、解っているのだ。
だが、今の和也にはどうしていいか解らない。
今回の写真集は、スポンサーの方からカメラマンを仁にしたと聞いた。
意を申し立ててカメラマンを変えさせることなど、出来はしない。
かといって、明日撮影に挑んでも、また今日の二の舞になるのがオチ。
怒りは収まりはしないが、途方に暮れたような気持ちになり始めた和也は、一度握った拳を壁に強く打ちつけてその部屋を飛び出した。

「カメっ!!」

大丈夫かと、和也を心配しつつ、智久は何か面白いことが起こる予感を感じていた。
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