■もしも「声帯障害者×大学生」だったら 2007/03/18
夜だというのに、光り輝く街を黒塗りの車は通過していく。
車を運転するのは、先ほど和也のアパートに来訪した中丸。
助手席には、あのオルゴールを抱えた和也が座っていた。
言葉も何も交わされるでもなく、車は進む。
何故、中丸の言葉通り大人しく着いて来てしまったのか、和也には解らなかった。
多分、中丸に不思議と不信感を抱けず、更に、その言葉に惹かれたのが要因なのだろう。
混乱する頭で導き出した答えは、そんなものでしかなかった。
街を抜けて数時間、走り続けた車は、どこかの門を潜り抜けて行く。
道すがら見える景色は、日中ならば美しいだろうと思えるもので。
しばらく経つと、車は停車した。
誰かの豪邸の前に降ろされ、中丸もいそいそと降りてきてその豪邸の玄関を開けて和也を中に呼び込む。
恐る恐る危機感を持ちつつ中に入れば、豪邸というにはかなりこざっぱりしたシンプルな玄関が和也を待ち構えていた。
「こちらへどうぞ。
今お茶を入れて来ますので、どうぞ、寛いでお待ち下さい。」
客間と思わしき、立派なソファのある部屋へと連れて行かれ、待たされる。
玄関を見たときも思ったのだが、この家はかなりお金がかかっていそうな広さと大きさを誇っているのに、内装の飾り立てはいやにシンプルだ。
それでも、センスのいい内装は、ゴテゴテしくない分、かなりの好印象を与えている。
クッションの利いたソファに座り、その前に置いてあるテーブルに抱えているオルゴールを置いた。
オルゴールとテーブルの立てる重い音と同時に、先ほど入ってきた入り口から中丸がトレーを持って入って来る。
ティーポットとカップを乗せたトレーをテーブルに置き、軽く湯気の立つカップを和也の前に一つ、もう一つを自分の前において話し始めた。
「この家の当主は、唄うことがとても好きなお方でした。
けれど、十年以上前に、風邪をこじらせ、高熱の日々が続き、その声帯の機能を失ってしまわれたのです。」
「声が、出ないって...ことですか?」
カップの紅茶を一口口に含み、中丸が肯定を示した。
その瞳に一点の曇りもなく、話は全て本当だと言葉にせずとも語っている。
和也はどう返して良いのか解らずに、紅茶を一口口に含んで視線を落とした。
そして。と、言葉を繋いだ中丸は、いよいよ本題に入ったようだ。
「そして、このオルゴールが作られたのです。」
「何の...為に?」
「このオルゴールには、音色と言うものが存在しません。
オルゴールの音の要と言えるシリンダーにピンを植え込んでいないからです。
だから、当然音も声も、何も聞こえない。」
「っ!?
けど!!!」
「そう。
けれど、あなたには、きちんと聞こえていた。
一番最初、オルゴールを拾ったときから、あなたにだけは、聞こえていたのです。
それこそが、このオルゴールが作られた目的。」
また一口、喉を潤すために、口に含まれた紅茶。
カチャン、と、陶器が触れ合う音を響かせてから、中丸は再度口を開く。
「声を失っても、あいつは歌を唄うことを止めなかった。
誰にも聞こえないその声を、表情を苦痛に歪ませながらも、唄い続けて。
そんなあいつの姿を見ていたくなかった。
だけど、俺にはあいつの声は聞こえない!!!」
「.........」
“あいつ”とは、話の流れからこの家の当主のことを指しているのだろう。
よほど仲の良い間柄なのか、感情の昂ぶりによって言葉遣いも素が出ている。
言葉と同じくらい、痛々しい表情で、叫ぶように感情を吐露する中丸は、心根が真っ直ぐで優しい人間なのだろう。
数時間前に初めて顔を合わせ、そんなに会話を交わしていない和也にも、中丸の優しさが伝わっていた。
「だから、探したんだ。
あいつの声が聞こえる人間を。
本当に、奇跡のようなことだけど、あなたはオルゴールの音をちゃんと聞き届けてくれた。
このオルゴールは、ちゃんとあいつの為に役目を果たしてくれた。
だから、お願いだ!!!
あいつと、会ってくれ!!!
あいつの声を、直に聞いて欲しいんだ!!!」
今まで座っていたソファを倒す勢いで立ち上がり、頭を精一杯下げる中丸。
あまりに現実離れしたことに、戸惑いながらも、和也は覚悟を決めた。
「頭を、上げてください。」
「っ、じゃぁ...!!!」
「会います、その人に。」
「ありがとうございます!!!
ちょっと、待っててくださいね!!!
直ぐに連れてきますから!!!」
顔を上げた中丸は、そんなに嬉しかったのか、満面の笑みで和也に言い置いて部屋を駆け出していった。
バタバタと、ドップラー効果を足音で奏でる中丸に、和也は緊張の糸が切れたのか、詰まっていた息を吐き出してソファに沈む。
そして、この家の当主という人物に想いを馳せた。
どんな人物なのだろうか。
中丸が気安く“あいつ”呼ばわりをしているところを見ると、そんなに和也と年齢は変わらないのだろう。
若干唸り声を上げながら思考の海を漂っていると、部屋の扉をノックする音が数回響き、中丸が入ってきた。
その後ろに、一人の男性。
見覚えのある、けれど、それ以上に美しく、整えられたその容姿に、驚きを隠せないでいると、中丸がテーブルに置かれた和也の持ってきたオルゴールに目を向け、綺麗に笑んだ。
「ご紹介します。
この家の当主で、そのオルゴールのモデルとなった―――――」
「(初めまして、赤西仁です。)」
思わず目を見開き、凝視した相手から、鼓膜を震わせる音は聞こえなかったけれど、確かに、声が聞こえてきた。
オルゴールの人形と赤西仁と名乗った当主を交互に見やり、驚きを顕わにする和也に、中丸は苦笑し、仁は笑っている。
音はしないけれど、確かに声に出して笑っているのだ。
「え、?
あ...えと...亀梨、和也です。」
「(亀梨?ふ~ん...じゃぁ、カメって呼んで良い?
俺の事は仁って呼んで良いからさ。)」
取り敢えずは自己紹介。と思い直し、混乱する頭で名前を告げた。
すると仁がまた話しかけてくる。
笑ってはいるものの、その瞳の奥に、不安の色が入り混じっていた。
本当に、和也に自分の声が届いているのか不安なのであろう。
中丸の言葉を遮り、自ら名乗ったのも、不安からなのだと、その感情を読み取った和也は思った。
だから、驚きすぎて上手く笑えなかったかもしれないけど、表情を精一杯笑みに変えて、仁の前に一歩出て意思表示をする。
「うん。
皆からもそう呼ばれてるからカメで良いよ。
俺も仁って呼ばせてもらうね。」
若干仁のほうが背が高いので、少々上目遣いになりつつも、しっかり仁の瞳を見て和也は微笑みかけた。
次第に潤み始めた瞳から、涙が一粒零れるのに、時間はそうかからない。
その前に、和也は仁に抱きしめられてしまったので、今仁がどんな表情をしているのかわからなかったが、仁から、不安はなくなったようだ。
仁の横にいた中丸も、涙でぐしゃぐしゃの顔で笑っている。
「(カメ、カメ...!!!)」
「うん、何?仁。」
「(カメ...!!!
俺の声、ホントに届いてる...?)」
「届いてるよ、仁。
ちゃんと、俺には届いてるよ。」
「(ありがとう。)」
しばらく抱き締められていたが、漸く顔を上げた仁は、とても嬉しそうな、子供のような満面の笑みを和也に向けた。
「あのオルゴールもさ、仁の一部だったんだね。」
「(...?
どうしてそう思うの?)」
「聞こえたんだ、俺。
オルゴールの歌が聞こえる前に、『俺ノ声ヲ聞イテ ゼンマイガ錆ビルマデ、唄ワセテ――――』って。
仁も、その想いがあったから、ずっと唄い続けていたんでしょ?」
「(うん。
誰でも良いから、俺の声を聞いて欲しかったんだ。
そっか...あのオルゴールは、俺自身だったんだ...)」
「ねぇ、仁。
唄って。
俺、仁の歌声が聴きたい。」
□-◇あとがき◇-□
何気に訳解らないものになりましたがι
元ネタは矢野絢子(やの じゅんこ)の『ゼンマイ仕掛け』から。
私結構矢野絢子の曲好きなのですが、レンタルしてなくてこのたびCDアルバムを買ってしまいました。
もし興味がある方はyahoo!で試聴できるので聞いてみては如何でしょうか。
まぁ、歌詞は全然この話と被りはしないのですが、ね。
微妙に使わせてもらってる。って感じで。
意味不明な上、やたらと長くなりましたが(苦笑)
コレにて!!!
バイにゃら。