アリスのティーパーティ@準備篇
扉を開ければ、そこには違う世界が広がっていた。
なんてことは勿論なく、けれど、確かにそう現実逃避したくなるような現状が目の前に広がっていた。
「...何?そのウサ耳。」
呟いた言葉を耳聡く聞き入れた、ウサ耳をつけた男が振り返る。
はっきり言って、ウサ耳がとても良く似合っていた。
「今月のこの店のコンセプトは『不思議国のアリス』だ。
俺が白ウサギ、イザークがハートの女王、ディアッカはイかれ帽子屋で、ニコルはチェシャ猫。
勿論アリスはお客様。
キラは何がいい?」
視線を目の前のウサ耳の男、基、アスランから店内へと向けると、グラスを洗っているニコルが目についた。
その頭には縞々のネコ耳が着いている。
他にも、テーブルを拭いているディアッカは黒のシルクハットを被っているし、乾燥し終わった皿を棚に戻しているイザークに至っては、こじんまりとしたティアラならぬクラウンが頭上に鎮座しており、首にはハート型の銀のネックレスを下げている。
多分、色々と思いっきり抵抗した故にそういったシンプルな物に至ったのだろう。
もとより、あまりハートの女王と思わせるような物がこの店になかったのも原因の一つなのかもしれない。
妥協という言葉が一切存在しないアスランなのだから、いくらイザークが抵抗しようともこんな物で終わるはずがないと解りきっているのできっとそれが真実だ。
ある意味、アスランが一番、ハートの女王が似合う性格をしている。
厨房にいるコックのミゲルとパティシエのラスティだけは普段通りの白い調理服だった。
「昨日は白雪姫って言ってなかったっけ...?」
「あぁ、あれはつまらなかったから全員一致で止めたんだ。」
「僕、一言もそんなこと聞いてないんだけど?」
「今聞いただろう?」
大きな銀色の懐中時計を首からぶら下げ、各テーブルに一輪挿しの花瓶を置きながら説明を口にした。
一輪挿しの花瓶には、真っ赤なバラが生けられている。
「今日の客への挨拶は『ワンダーランドへようこそ、アリス。』だからな。
間違えるなよ。」
頭が動く度に、その頭上に着いているウサ耳がぴょこぴょこと動いている。
この、ウサ耳を着けている男のオレ様な性格とは正反対に可愛いらしい。
因みに。
この男がこのカフェのオーナー兼ウェイターだったりするので逆らえるはずもなく、彼にかかれば、決定権や拒否権は疎か、最終的には人権すらも無に等しかったりするのだから質が悪い。
けれど、一番質が悪いのが、そんな男を胸を張って堂々と大好きと言える自分なのだと、キラは薄々自覚していた。
そんなこんなで、今日もこの店は開店していく。
ワンダーランドへようこそ、アリス。
時間を忘れてごゆるりと、お寛ぎ下さい。
