揺るぎない決意
アスランが自室へと戻ると、アスランのベッドにキラは寝かされていた。
隣の、使っていないベッドには、皺にならないようにしてキラが着ていた軍服が置いてある。
ラスティ、ミゲルの気遣いなのだろう。
それを目にして苦笑し、自分も軍服を脱ぎ捨て、キラの、枕に埋もれている顔を覗き込む。
すやすやと、規則正しい寝息を立てながら寝ているにも関わらず、眉間に皺を寄せ、何かに耐えるような表情をしている。
時折、呻き声ともとれる音が聞こえ、その合間合間に、自分を呼ぶ声も聞こえてくる。
すると、布団からキラが両腕を伸ばし、空を掴む様にして何かを探す動作をし始めた。
空を切るキラの手を握り、アスランはキラの隣へと布団の中に身体を滑り込ませた。
その瞬間を見計らったようにして、キラの腕がアスランの首へと回され、強く、抱きついてくる。

「ぁ…アス、ラン……」
「キラ。
 俺はここにいるよ。
 キラの傍にずっといるから。」

静かな空間に、木霊するかのように、アスランはキラへ、言葉を紡いだ。
その身をしっかりと抱いて、離さないというかのように。
アスランの温もりを感じてか、言葉を聞いてか、キラの顔に安堵の表情が浮かび上がる。
眉間の皺も取れ、耐えるような表情も消え去り、今はもう、麗かな気候のもと、太陽の光を一身に浴びて昼寝をしている人のような、そんな優しい表情へと変わっている。
それを確認してから、アスランは眼を閉じた。
その腕に、キラを強く、抱いたまま。





「どういうことか、説明してもらおうか!!!」

ミーティングルームへと場所を移した早々、ラスティはイザークの叫びにも似た怒声を1人、浴びていた。
いつもはそんなイザークを諌める役のニコルやディアッカも、イザークを諌める気はないらしく、視線だけ投げつけ、傍観を決め込んでいる。
怒鳴りつけるイザークに、内心泣きたくなるラスティだった。

「説明って言っても…」
「アスランはお前の判断に任せると言ったんだぞ!!
 ならとっととその判断とやらを下して全部言ったらどうだ!!!」

余りにも傍若無人な物言いに、少しばかり頭痛を覚えるラスティだったが、このままでは再度イザークが切れるだろうと思い、どこから話せばいいのか、悩むのだった。
既に眼の据わり切っているイザークだ。
これ以上刺激し続けたら、何が起こるかわからない。
それに、傍観を決め込んでいるが、ニコルやディアッカも侮れない。
以外に冷静に周囲を見ているラスティは流石と言えよう。

「イザークの怒声が外まで響き渡ってるぞ。
 ここ、一応防音設備ばっちりのはずなんだが…
 流石、イザーク。」

少々呆れ顔で部屋に入ってきたのは、ラクスを部屋へと案内をしたミゲルだ。
ミーティングルームは大抵、聞かれては困る内容を話し合うことを目的として作られた場所で、当然、防音設備は他よりも重視して作られており、ちょっとやそっと騒いだだけでは音は外に洩れないようにできている。
だからミゲルが感心してしまうのも、無理はないだろう。

「質問には答えられる範囲で答えてやるよ。」
「では…まず、キラさんについて。」

神妙な面持ちでニコルが一番気になっていた人物の名前をあげた。
それはイザークやディアッカも気になっていたことなのか、反論する事もなく、ラスティの言葉を待つ。

「キラ…ねぇ。」
「ちょっと待て。
 お前は仮にも上官を呼び捨てにするのか?」
「ん?
 あぁ、任務が終わればアスランもキラも呼び捨てだよ。
 そういう取り決めだし、何よりキラが怒る。」
「そうそう。
 『任務の時はしょうがないとしても、僕には【キラ】っていう名前があるんだから!』ってね。」

ラスティの言葉に、耳聡くも反応したイザークは待ったをかけてしまった。
その問いに気にした素振りもなく、ラスティとミゲルは飄々と答えていく。

「そんなことより、キラさんのことです!!」
「あぁ、そうだったな。
 …一言で言っちゃえば、キラはアスランの幼馴染なんだ。」
「幼馴染!!!!」
「…ラクス嬢とも仲良かったですよね、もしかして、彼女とも…?」
「ラクス様とは友達の関係だ。
 まぁ、ラクス様のおかげで執行部隊はあるんだけど、これは話すと長くなるんだよね…」

前置きをして、イザークたちを見渡せば、3人とも、真剣な表情でラスティに視線を返してきた。
ミゲルを見れば静かに頷き、肯定の意を表している。

「この話をする上で、アスランとキラに関しては本人の了解を得ない事には話せないからな。
 それと、質問は最後に聞いてやるから一気に喋らせろよ。
 でないと話の時間軸がどっか飛んでくぞ。」

アスランとキラの話は、自分達がそう易々としていいほど軽い話でないことを知っているラスティはあえて、念押しをするようにしてイザークたちを見据えて話す。
ある意味脅しのような言葉を発し、ラスティは一旦言葉を切った。

「事の起こりは11年前、ある事件により、アスランとキラはザフトへ入隊することを決意したんだ。
 だけど、そのときのザフトは今のように少年兵を受け入れてなく、しかも、当時、2人は5歳で、本当に子供だった。
 だから直接、評議会に奇襲をかけに行き、そこで初めて2人はラクス様と出会ったんだ。
 
 評議会に奇襲をかけに行ったのには1つの理由がある。
 それは、自分達の能力を見せ付けるため。
 評議会はお偉いさん方の集まりだから、警備も厳しく、不法侵入者は一切許さない。
 そんな難攻不落な場所に2人は忍び込んだんだ。」






アスラン、キラ、当時5歳。


「キラ、そっちはどう?」
「ん、もうちょっと…
 よし、開いた。」

ひそひそと、声をできる限り小さくして話し合うのは、今まさに、評議会会議室へと乗り込もうとしているからだ。
これまで、誰一人不法侵入させることなく、守ってきた警備のシステムや人員。
それをものの数分でパソコン、体術で蹴散らし、2人は侵入を果たした。
そして、今直面しているのは会議が行われている会議室の扉。
この扉も厳重にロックされており、中々開く気配を見せなかった。
キラ、アスランは手持ちのパソコンを駆使している。
ロックを外しに取り掛かること数分。
キラがエンターキーを押す事により、ロックが解除された。

「何事だ!?」
「警備はどうした!!」

俄かに騒がしくなる会議室内。
だが、騒ぎながらもうろたえることはなく、現状を把握しようと努めている。
少数の者達は隠し持っている武器を手にし、ある者は部屋に備え付けられている通信機で警備室へ連絡を取っている。
通信回線をアスランにより遮断されている今、その試みは無駄に終わった。

音を立て、扉が開く。
両開きの扉から姿をあらわしたのは、まだ子供と言える年代の男の子が2人。
アスランとキラだ。

「アスラン、キラ!?
 これはいったい何事だ!?」
「僕らの願いを聞いてもらうため、この行動にでました。
 ザフトに、入隊させて下さい!!」
「何をバカなことを!!
 あなたたちはまだまだ子供。
 ザフトのような軍隊に、子供は要らぬ!!」

驚きに見開かれた瞳を、議員たちは2人に向ける。
その表情は、アスランの言葉を聞いた瞬間、嘲りに変わった。
だが、アスランの父、パトリック・ザラだけは、2人の瞳の、意思の強さに答えを導いた。

「わしは、2人を入隊させることに異議はない。」
「!!何を言う、パトリック!!
 まだ親が護らなくてはならない、年端もゆかぬ子供を軍に属させるだと!!」
「何を考えている、パトリック!!
 その子供はお主の息子であろう!?」
「確かにアスランとキラはまだ5歳で子供だ。
 だが2人は何も知らない無知な子供ではない!!
 守るということの意味を知って尚、譲れないもののために軍に志願したんだ。
 それに、わかるであろう。
 今回のこの騒動の首謀者はここにいるアスランとキラが引き起こしたもの。
 実力、事を起こす大胆性。どれをとっても大人に引けを取らぬ。」
「だがやはり、2人はまだまだ子供。
 今でなくとも良いのではないのか!?」

突然のパトリックの言葉に落ち着きを取り戻しかけていた議員たちは再度、慌てる事となった。
パトリックの言うように、今回の騒動の首謀者は明確。
そして、それだけの能力、実行力は大人に引けを取らぬ事もわかっている。
だが、やはり子供という概念がエザリア・ジュールの判断を鈍らせていた。

「失礼致しますわ。」
「ラクス!?」

開かれたままの扉から、またもやアスランやキラと同年代の少女が現れた。
ほわほわとした、柔らかい空気を纏い、会議室へと入る。
アスランとキラを見て微笑み、パトリック・ザラを見て、父親であるシーゲル・クラインを見て。
周囲を見渡して、ゆっくりと口を開いた。

「何を、迷っていらっしゃるのですか?
 お2人の覚悟は本物ですわ。
 もしここで、押さえつける様なことをなされば、お2人はこちらを敵と見なしましょう。
 どうか、お2人の覚悟をわかって下さいませ。」

悟らせるような、そんな言葉を紡ぐラクスも、決意と強さをその瞳に宿していた。
彼女もまた、望まぬ争いの火種の1つなのだから…







□-◇あとがき◇-□

イザ母の名前がどうしても出てこず、かなり焦りました。
思い出そうとしても、某マンガの親ばか中佐の愛娘の名前が浮かんできてしまい…
ホントに、焦りましたよ。

さてさて始まりました。
過去の話です。
次は本当に過去になるかと思われますが、多分最初にラスティが出てくるかと…