人の想い
ラクスの宣戦布告ともいえる爆弾発言が投下されてすぐに、ラスティとミゲルは戻ってきた。
アスランの前に赴き、無言で敬礼を取り横へとずれる。
その瞬間を見計らったようにアスランが1歩前へ出て、AAの艦長であるラミアスと向かい合った。
「オーブへと連絡を取った。
6時間もすれば迎えがくるだろう。
民間人は全員オーブへと引き渡すが、そこのお前達はどうする?
元々民間人だったのを巻き込まれて状況が状況なだけに軍に志願したのだろう?」
「俺達は…」
「…もし……もし、今ここで地球軍として、この場に残ったら…
キラに…キラに、もう1度会えますか…?」
「会いたいのか?
キラに。」
「会って、どうしても話がしたいんです!!
それに、まだ…『ありがとう』も、『ごめんなさい』も、言ってないから…」
アスランの義務的な言葉を真正面から受け、その内容にラミアスは安堵した。
彼女は投降してからずっと、民間人のことを気遣っていたのだが、今、この状況で、そのことを進言しても無駄だろうことは確かだった。
だから、アスランからその言葉を聞いたときは幾分かの肩の荷は下りたのだが、その次に、トールやミリアリアたちに問われた言葉に、また表情を強張らせざるを得なくなった。
元々は自分達のエゴのため、巻き込んでしまったこの戦争だ。
民間人のままだったら良かった。
だが、彼らたちは、キラを1人で戦わせる事に対して罪悪感を抱き、軍に志願した。
そんな理不尽な事を強いてしまったことに、自責の念を抱いてきたから、民間人と扱ってくれるというアスランの言葉に、過敏に反応を示した。
アスランの、2択の問いかけに、声を震わせながらも真っ直ぐに答えてくるミリアリア。
その表情は真剣そのもので。
アスランは意地悪な笑みを浮かべ、トールやミリアリア、サイ、カズイを見渡した。
「いいだろう。会わせてやるよ。
だが、さっきも言ったが、今のキラがお前達の知っているキラかどうかは保障しない。
それと、軍人としてこの場に残るのなら…それ相応の覚悟はしておけ。」
快活な口調で言い終えると、アスランはラミアスへと向き直った。
「さて、これであなたが心配している事柄は全て処理されたと思われるのだが。
他に何かあるか?」
「…いえ。
ここまでしてもらっておいて、何も言う事はありません。
でも、何故なの?」
「何故、とは?」
「何故、ここまでしてくれるの?
民間人は、妥協される件ではあったけど、彼らたちの件は、あなたたちにとってはどうでもいいはずよ。
なのに、何故…?」
笑みを深くして言葉を紡ぐアスランに、驚きを隠せない、といった風にラミアスは疑問を音にしていく。
彼らたちのことは、ザフトにとって、取るに足らないことだったはず。
それなのに、わざわざ逃げ道を作るような真似をするアスランが信じられなかった。
「恩を、仇で返すのが嫌いなだけだ。」
「…恩…?」
「あなたはキラとの口約束を守ってラスティを殺さず保護した。
それに対しての恩だ。」
「だからって…そんな、軍規に違反するようなことを…?」
「人の想いと言う物は、もっと根深いところにあるものですよ、マリュー・ラミアス。
あなたにとって取るに足らないことであっても、俺達にとってすれば、とても大切な事だからな。」
話を進めるアスランの表情に、ほんの一瞬だけ、自嘲じみた、儚い笑みが交じったのを誰も知らない。
それは本当に一瞬のことで、キラでなければ気付かないほど、ほんの些細な変化だったから。
根深いところにある想い。
この、言葉の意味を知るときは、そう遠くない…
「後のことはクルーゼ隊に一任する。
約束は守るさ。必ずな。」
「「お任せください。」」
クルーゼ、フラガに命令を下し、ミリアリア達に不敵な笑みを向けた。
「待て!!
アスラン!!!」
「おい、ちょ...イザーク!!」
踵を返し、その場を後にしようと背を向けた瞬間、イザークがアスランを引き止めた。
今の今まで黙っていたことは、彼にしてみれば随分耐えた事だろう。
その我慢も限度を超えたかのようにいきり立つイザークを尻目に、さも今その存在に気付いたという素振りを見せながら徐に口を開いた。
「ミゲル、ラクスを部屋へ。
ラスティ、後はお前の判断に任せる。」
「「はっ!」」
まだまだ食い下がってくるイザークを完全に無視してさっさと格納庫を出て行った。
ミゲルはアスランの命令を受け、ラクスを部屋へと案内している今、全ての事情を知っていて、尚且つ、アスランからラスティの判断に任せるという許しも得たことにより、ラスティはイザーク、ニコル、ディアッカの視線をひしひしと感じていた。
居た堪れない気持ちでいっぱいになりながらも、イザークを見やれば、完全に目が据わっていた。
その様子を一歩引いたトコから傍観していたフラガはやれやれと言った風に肩を竦める。
「まぁ、なんていうか…
俺が部屋に案内するから、思う存分あいつらについて追及してな。
いいだろ?クルーゼ隊長。」
「…いいだろう。
イザーク、ニコル、ディアッカ。」
「「「はっ!!」」」
「場所を移すがいい。
そうだな、ミーティングルームでも使うがいい。
聞かれたくない話をする時はうってつけの場所だからな。」
クククッ…と喉の奥から声を響かせ、クルーゼはその場を後にした。
フラガはフラガでAAのクルー達を誘導していて、イザーク達はラスティを引っ張るようにしてミーティングルームへと向かう。
一方、クルー全員を収容できる部屋へと案内したフラガは、心持ちドギマギしていた。
クルー達の視線が痛いわけではない。
こういうことは想定されていたことだし、他者の視線が痛いのも、ずっと昔から、そうだったことなのだから然して気にすべきことじゃない。
一番気にすべきこと。
それは、愛しい人の、心内。
ただただ無言に、責めることも、泣くこともせず、真っ直ぐな視線をぶつけてくる彼女の心内。
「ラミアス艦長。
ちょっと…」
控えめに、ラミアスだけを部屋の外へと呼び出す。
なんとしてでも、伝えねばならないこと。
それは、以前、AAに乗っていたときにも告げたこと。
だが、再度、伝えねばならなかった。
フラガが思いあぐねて口を開くよりも前に、ラミアスが思いを口にした。
「前に…前に、大尉に告げた言葉。
私は、あの時告げた言葉を違えるつもりはありません。」
ラミアスの言葉に、一瞬呆気に取られたフラガはまじまじとラミアスを凝視してしまった。
自分が言うよりも先に、言われてしまった言葉。
この人は、何でそんなに真っ直ぐに生きていられるのだろう。
その生き方は眩しくもあり、羨ましくもあり…
だからなのか。
自分が、持ち得ないものを持っている彼女に惹かれるのは。
今まで抱いていた気持ちに対し、自嘲気味な笑みを向け、フラガはラミアスを抱き締めた。
「艦長、話がある。」
「…大尉?」
真剣な表情をしながら、フラガはラミアスを人気のない通りへと導いた。
本当ならどこか個室にでも入って話がしたかったのだが、色々と仕事があり、雑務に追われての状況下なので人気のない場所で妥協せざるをえなかった。
だが、この状況下だからこそ、聞かねばならなかった。
先日、想いを通じ合えたからこそ…
「艦長。
もし、俺が...艦長が思っているような奴じゃなかったら...だったら、どうする?」
「私は…私は、大尉が大尉だからこそ、あなたを愛しているのです。
もし、あなたが、私が思い描いている人じゃなくも、あなたが私を好きなのなら、私もあなたを好きでいるわ。」
「…ありがとう、艦長。」
真っ直ぐに見つめてくる瞳に、真剣なものを感じ、ラミアスは自分の想いを正直に口にした。
何を不安に思っているのかわからなかったが、自分の言葉を聞いて、笑ってくれたことに安心したラミアスは微笑みを、フラガに向けた。
□-◇あとがき◇-□
最後のフラガさんとマリューさんの会話は(フラガさん「艦長、話が~」のとこからです)AA内にての会話の回想です。
文章って、どうしてこうも回想シーンの別け目が難しいのか… ホントはこれはきちんとその時に入れるはずだった部分だったのですが、これそのまんま入れちゃうと、フラガさんが敵だということを醸し出してしまうので、ってわけでありまして。
ここにてお披露目させて頂きました。
気になった方、居りましたでしょうか…?
フラマリュ好きな私とお友達により、いくら敵同士だからといって別れさせるのは忍びない。
とのことでこんな風になりましたよ、はい。
でもってフラマリュの出番はコレにて終わり。かな?
後々展開に飽きたら再度出番出てくるかも。