お披露目
程なくしてAAの乗組員はヴェサリウスへ、民間人はガモフへと連行されていった。
AAに乗ってから志願した元民間人の学生達や、医務室で保護されていたラスティ、そして、保護されたラクスはヴェサリウスへと連れて行かれた。
流石に人員不足といってもそれなりにAAの乗組員はいるわけで。
あまり艦内を引き連れて歩くわけにもいかず、格納庫にて交渉をすることとなった。
「ラクス様!!」
「ご無事で何よりです。
ラクス様!!!」
ラクスが姿を見せると、ザフト兵たちは沸き立つように歓声をあげた。
無重力の中をふよふよと浮きながら、ラクスは柔らかな笑顔でその声に答える。
その前を先導するかのようにピンクの球体、ハロは独特な言葉で飛び交っていた。
「ラスティ!?
お前、生きていたのか!!」
「おいおい。
幽霊じゃないだろうな?」
「ご無事でよかったです。」
ザフト兵に怪我を気遣われながら連れてこられた、嘗ての戦死したと思われていた少年を発見した紅い軍服を着こなす少年達は、無重力を利用して軽く床を蹴り、ラスティの周りに降り立った。
ラスティは三者三様にして個性ある労いの言葉をかけられ、苦笑するも、ザフトの敬礼をしてみせた。
右足がまだ完治していないのだろう。
松葉杖を使いながら歩くラスティを見て、誰もがそう思った瞬間、その思いを裏切るような言葉が聞こえてきた。
「まだ怪我人の振りをしていたのか、ラスティ。」
「え!?」
「やっぱり、隊長にはバレちゃうんですね。
ラスティ・マッケンジー、只今任務を終え、帰艦しました。」
凛とした声が格納庫の入り口から届いた。
それほど大きな音でなかったにも関わらず、威厳に満ちた声は壁を反響してこの空間に響き渡る。
ラスティが『隊長』と言葉を口にした事で、紅を纏う少年たちを驚愕へと導いた。
何故なら、自分達、紅の軍服を着る隊の隊長はラウ・ル・クルーゼただ1人なのだからだ。
「そんな、だって…キラ君が…!!」
「そういえば、キラはどこ…?」
「キラを、どこにやったのよ!!!」
だが、そんなこととは露知らず、AAの面々はラスティの怪我が完治していたことに驚いた。
今まで、彼の怪我の手当てはキラがしてきた。
誰もコーディネーターの、それも敵軍の少年の手当てをしようとしなかったからだ。
だから同じコーディネーターであるキラに任せたのである。
その彼からマリューは、完治するには未だ時間がいると、先日報告を受けたばかりなのだ。
それなのに完治している怪我。
そして、今姿の見えないキラ。
フレイの憎悪に満ちた叫びを聞きながら、先ほどの声の主は残酷な笑みを浮かべ、距離を縮めてきた。
その姿を確認して驚きの表情を紅を纏う少年達は浮かべる。
その声の主は3人もよく知るアスランであったが、彼の纏う軍服は自分達の着ているそれとは違い、漆黒の色に近い紺色をした裾の長い軍服だった。
「!?アスラン!!」
「貴様、その軍服の色はなんだ!!」
「『隊長』って…」
イザークたちは任務中であるにも関わらず、三者三様の驚きを隠しもせずにアスランに詰め寄った。
それを制したのは、彼らが隊長、クルーゼだった。
その隣にいる人物は…
「フラガ大尉!?」
「何で大尉が…!!」
「悪いね、AAの皆さん。
俺、実はこいつの副官なんだ。」
「そんな…!!」
驚くAAのクルーたちを見ながら、軽い口調で話すフラガは、先ほどまで纏っていた地球軍の制服を脱ぎ捨て、今はクルーゼと同じ、白の軍服を着込んでいる。
「無事、ご帰還されて、何よりであります!
フラガ副長!!」
イザークたちは自分達の上官であるフラガへ、びしっと、音がしそうなほど見事な敬礼を見せた。
それにより、フラガが敵だということをまざまざと知らしめられたAAのクルーたちは、その瞳に絶望の色を滲ませていた。
「キラは!!
キラは、どこにやったのよ!!!!!」
絶望の淵に立たされたような表情をしているAAのクルーたちの中で、フレイだけは、まだアスランに怒鳴りつけていた。
喚くフレイに牽制のため、発砲する。
打ち込まれた弾丸は、全てフレイの身体の線ギリギリを通り抜けていく。
「うるさい、少し黙ってろ。
すぐに会わせてやるさ。
そのキラがお前達の知っているキラかどうかは、保障しない、がな。」
クスクスと、楽しげに笑う姿は、無邪気な子供を連想させた。
だが、アスランの浮かべる笑みは、どこまでも冷たく、どこまでも残酷なものでしかない。
生身の人間に向かって銃を発砲した時でさえ、その表情は残酷なもので、何の感情の動きを示す事はなかった。
「一応捕虜なんだからさ、もう少し手加減したら?」
心地よく耳に馴染む声が恐怖に彩られたAAのクルーたちの耳についた。
その声は、いつも聞いていた柔らかな音ではなく、眼の前にいる、アスランと似たような冷たく、残酷な音だった。
声の主を見れば、やはり、思い描いていたその人で。
アスランと同じ軍服を着込み、普段からは到底考えられないほど冷たい笑みを湛えている。
当然のようにキラはアスランの隣へ降り立つ。
着地したのを見計らって、ラクスは2人へと近寄った。
「キラ、アスラン、お久しぶりです。」
「ラクス。
ご無事で、何よりです。」
「あの艦にキラがいましたから、然して問題はありませんでしたわ。
でも、キラは話し相手になって下さらなくって、とてもつまりませんでしたわ。」
「ごめんね、ラクス。」
クスクスと、楽しげに笑うキラは、言葉と表情が全く一致していない。
それはラクスに至っても同じ事が言えるのだが。
時が止まったように3人を見続ける視線を物ともせずに、世間話的会話を続けていく。
すると、1機のシャトルがヴェサリウスへ着艦した。
そのシャトルから出てきたのは、これまたアスランやキラと同じ軍服を纏ったミゲルだったが、裾の長さだけは、イザーク達が纏っている紅の軍服と同じぐらいだった。
アスラン、キラ、ラクスの前に降り立ち、ザフトの敬礼を見せた後、声高々に報告をする。
「ザフト軍最高評議会直属執行部隊ザラ隊所属、ミゲル・アイマン。
地球での任務を終え、帰艦いたしました。」
「向こうは何て?」
「早急に手配をする次第、とのことです。」
「ご苦労だった、ミゲル。」
「はっ!」
義務的に行われる報告を聞き、ザフトの一部の者たちは皆一様にして驚きを隠せずにいた。
何故なら、ミゲルが発した『最高評議会直属執行部隊』。
この部隊は今より10年も前に設立された闇の部隊だったからだ。
ザラ隊、ということはアスランが隊長というわけで。
先ほどのラスティの言葉を覚えている者は、すぐにラスティもこの部隊の隊員だという事実に結びつくだろう。
「てことは、ラスティも執行部隊なのですね。」
「噂によれば何百、何千という優秀な隊員が所属してるって話だが…」
「あぁ、それは真っ赤な嘘だ。」
「なんたって、この部隊は俺達を含め、4人編成の小隊だからな。」
「嘘だろ!?」
上からニコル、イザーク。
そしてイザークの問いに答えたのがミゲル。
そのミゲルの言葉を引き継いだのがラスティ。
知らされた事実に驚きを表したのがディアッカ。
驚くのも無理はないだろう。
何故なら、約1年半くらい前、執行部隊の活躍によって、地球連合軍が巣食っていた1つの大国が物の数週間で壊滅に追い込まれたのだから。
その大国に住んでいた民間人は、誰一人負傷者を出す事がなかった。
そんな神業的なことを、たかだか4人でこなせるのだろうか。
仮にできたとしても、たったの数週間でできることなのだろうか。
その疑問に答えるわけでもなく、アスランはただただ微笑むばかりだった。
話についていけず、ただ一心にキラを見ているAAのクルー達の視線と、訝しむような視線を向けるイザーク達に苦笑すると、キラは1歩前へ進み出た。
「この姿でははじめまして、だよね。
ザフト軍最高評議会直属執行部隊ザラ隊所属副長、キラ・ヤマト。
どうぞ、よろしく。」
□-◇あとがき◇-□
これ以上書くと予想以上に長くなるのでコレにて切ります。
ミゲルの話し言葉が...ラスティとどっこいどっこいなのはココだけの話です。