知らされた真実
「その言葉を口にした時、彼女は、もう『母親』の表情ではなかったわ。
あなたの親は、ヤマト夫妻。
あなたの姉の親は、オーブのウズミ夫妻。
そう、心のどこかで割り切っていたのね...
そして、その数日後、彼女は研究時へ戻ったわ。
『夫を独り、逝かせるわけにはいかないから』と言って...」
最後の言葉を口にした後、レノアは口を噤んだ。
彼らにとって、衝撃の出生の事実。
そして、キラにとっては2つ目の悲劇。
育ての親であるヤマト夫妻をブルーコスモスに殺されただけでなく、産みの親である本当の両親をもブルーコスモスに襲撃され殺された、その事実。
哀しくないわけではない。
だが、キラの瞳からは、涙が零れることはなかった...
事態を重く見たパトリックにより、レノアとアスラン、キラをプラントへと呼び寄せる事となり、その日の夕方には迎えがくる事になっている。
その事を告げ、気分転換に、レノアは病院の敷地内くらいならと、アスランとキラを散歩へと連れ出した。
「キラ、大丈夫...?」
「うん。
大丈夫...アスランが傍に居てくれるもん。
大丈夫だよ...?」
自分に言い聞かせるように紡がれた言葉は、静寂の中に溶けていく。
泣き腫らしたキラの瞳は、虚ろで、それでいて、どこか哀しげで...
そんなキラを心配そうに見つめるアスランも、キラ以上に哀しげな、泣きそうな表情をしていた。
「アスラン。
この病院の敷地内なら自由に歩いても大丈夫だと思うから。」
「はい、母上。」
レノアの言った言葉に、自分たちを心配する以上の感情が含まれていることに気付き、アスランは表情に笑顔を貼り付けて返事をする。
その、気丈に振る舞う姿を痛々しく思いながらも、レノアも微笑み返した。
レノアから少し離れ、病院の敷地に咲き誇る、桜並木をてくてくと歩く。
手は、決して離れないようにという意思を込めて、しっかりと繋がれている。
久しぶりの外の空気にふれ、アスランとキラの表情は些か和らいでいった。
ただただひたすらに、桜が散りゆく道を歩く。
「ん...?
ガキが何でこんなところに?」
「!!こいつら、例のガキじゃねぇか!!」
「何!?」
前方から走りこんできた黒服の男たちがアスランとキラを視界に入れ、口々に言葉を吐く。
忘れもしない、この黒服姿の男たち。
キラの家に侵入し、ヤマト夫妻を殺害した男たちと同じ服装、格好をしている。
「ん~?こりゃぁいい!!
ガキだけのようだぜ!!」
「早く始末しちまおうぜ。
こんな化け物野放しにしておけば、前の奴らみたいにヤられちまうかもしれないからな。」
大胆にも、懐から黒光りの銃を抜き取り、銃口をキラとアスランに向けた。
病院から少し離れているとは言っても、此処は病院の敷地内に変わりはない。
従って、この状況を見ている人もいたわけで。
運悪くキラとアスランに銃口を向けた場面を目撃してしまったおばさんにより、恐怖の言葉が叫ばれた。
一瞬にして緊迫した空気を作り出されてしまい、慌てたのは言うまでもなく、黒服の男たち。
目の前に標的の子供が2人いる。
ここで殺さねば、もうチャンスはない。
幸いにも怯え切っていて、足が竦んでいるのか、2人は動こうとしていなかった。
ヤるなら今だ!!
1度、引っ込めかけた銃を、再度アスランに構えなおす。
他の男たちも懐から銃を抜き、キラを捕らえた。
「あばよ、化け物。
お前達化け物が死ねば、お前達のために死ぬ人もいなくなるんだぜ。
お前の、親のようにな。」
高笑いをしながら、セーフティを外し、男たちは狙いを定める。
撃たれる!!と、誰もがそう思った瞬間、アスランとキラを庇うようにして横から飛び出してきた人影が現れた。
身を挺して2人の前に立ちはだかる。
いきなりの事に、引き金を引く指を止められるわけもなく、銃口から飛び出した銃弾は、全て2人に届く前に庇った人物の身へと、撃ち込まれた。
「は...はは、うぇ......
母上ぇ!!!」
「っ!!
おばさん!!!」
その人物こそ、アスランの母、レノアだった。
バランスを崩し、後ろへと倒れ込んだレノアの表情は、血の気が引いていて青白い。
それもそのはず。
男たちの放った銃弾をその身に一身に受けたのだから...
出血の量が多く、どんどんと流れ出てくる鮮血が、レノアが倒れ込んだ地面へと広がっていく。
必死になってレノアを呼ぶアスランとキラは、先ほどとは違った恐怖を抱いていた。
また、自分達のせいで、人が死ぬという、恐怖...
「はっ!!!
いきなり飛び出してくるからだ。」
「お前達化け物のせいでまた人が死んだじゃねぇか。」
「こいつの場合、自業自得だろ。
こんな化け物庇おうだなんて、気が知れないね。
こいつもコーディネーターか?」
口々に浴びせられた罵詈雑言の言葉。
男達の言葉が、無垢な心に突き刺さる。
「まだ、息はあるみたいだな。」
「なら、殺しておこうか。
蒼き清浄なる世界のために。」
ドン、ドン、ドン!!!
男たちが、ブルーコスモスの決まり文句を言い終え、再びレノアに照準を合わせた瞬間。
あらぬ方向から発砲の音が聞こえ、男たちの持っていた銃が吹っ飛ばされた。
「っぐ!!!」
「何っ!?」
「良い大人が、寄って集って何をしてるんですか!!!」
「!!!
その制服は、地球軍!?」
レノアが先ほど出てきた方向から、今度は地球軍の制服を着こなした、見た感じ、15・6歳ぐらいの少女が出てきた。
男たちの足元や服など、直接身体に当たらないところを狙って威嚇のため数度発砲し、キラとアスランを背にして、片手に銃を構えた。
「覚えとくんだなぁ!!!
お前達化け物は、生きている限り、傍にいる人を巻き込んでいく。
どう足掻いたって、運命からは逃れられないんだよ!!!」
持っていた銃を打ち払われ、丸腰同然になった男たちは苦々しげに言葉を吐き捨てその場を走り去った。
残された少女は、最後に男が残した言葉を不審に思ったが、キラとアスランの悲痛な声でレノアの状態に気が付いた。
「!!
早く、病院に運ばないと!!!」
カッカッカッカッカッカ...
静かに響く靴の音。
焦りが音から汲み取れるほど、その音は険しく、響いた。
「アスラン!!キラ君!!!」
「!!ち、ちうぇ...!!
父上!!母上が、母上が...!!!」
「わかっている...わかっているから。」
しっかりとアスランの服を掴み、声なくして泣くキラを抱きしめていたアスラン。
必死になって堪えていた涙が堰を切ったように、アスランの瞳から零れ落ちる。
どんなに辛くても、泣き喚くようなことをせずに、耐えてきた。
パトリックを見て、一気にあふれ出た涙が止め処なく頬を伝う。
レノアは、出血多量で、医師も手を尽くしたが、先ほど息を引き取った。
アスランとキラがまた襲われ、レノアが撃たれたと聞き、パトリックは急いでこの月の病院に駆けつけたのだ。
言葉なくアスランとキラを強く抱き締めていたパトリックは、2つの人影を目の端に捕らえた。
その人物は2人とも地球軍の軍服を纏っている。
「ごめんなさい...、私が、もっと、早く駆けつけられていたら...!!!
ごめんなさい...!!!」
「あなた方は...?」
「私はこの子の親代わりです。
この子が、丁度、あなたの息子さん方と奥さんがブルーコスモスに襲われている時に駆けつけたそうなんですが...」
「君が、気に病むことは無い。
妻のことは残念だったが、君は私の子供たちを守ってくれたではないか。」
声を上げずに、泣く少女の頭を撫でながら、パトリックは優しい声音で言葉を紡ぐ。
「お取り込み中のところ、失礼します。
パトリック様、準備が整いました。」
「そうか...」
「それでは、私達もそろそろ失礼します。」
「巻き込んですまなかった。」
その場を離れていく2人に深々と頭を下げた後、やってきた、ザフトの軍服を着込んだ少年2人に視線を合わせた。
少々怯えながらも見つめているアスランとキラを自分の横へと引き寄せ、パトリックは軍服の少年達の紹介をした。
「私の補佐、ボディーガードをしてもらっている。
ラウ・ル・クルーゼと、ムウ・ラ・フラガだ。」
「よろしく。」
「よろしくな。」
「それから俺達はプラントへと向かった。
後は知っての通り、俺とキラはザフトに志願して入隊した。
さて、此処までで質問は?」
□-◇あとがき◇-□
ごめんなさい。
今回、6ページあったりしますι
だって、この回で過去編終わらせたかったんだもん!!!!
そのために、かなりはしょりましたわよ。
えぇ、そりゃぁ、もう。
さてさて、登場してきました謎の少女とその保護者。
誰かは...後々わかることです。
勘の良い人ならば気付くかもしれないですが、普通はわかりませんよ。コレは。
水那ちゃんなら...もしかしたら気付くかも...ですが。
なんたって、このネタを持ってきたのは彼女ですから。