秘められた過去
「あの事件が起こったのは、俺とキラがまだ月の幼年学校に通っていた頃だ...」









アスラン、キラ、当時5歳


「ただいまぁ~~!!!」
「ただいま。」
「おかえりなさい、キラ、アスラン君。」
「おかえり、キラ、アスラン君。」

勢い良く、元気に玄関の扉を開け放ち、挨拶をするのはキラ。
そして、その後に続くようにして、ヤマト家の敷居を跨ぎ、静かにヤマト夫妻に挨拶をするのはアスラン。
対照的な2人の挨拶に、笑みを含ませながら、ヤマト夫妻は挨拶を返す。
いつもなら、仕事でキラたちが帰宅するときに居合わせることのないキラの父親も、今回は休暇が取れたとのことで、キラたちを出迎えてくれた。
普段、仕事で親子のスキンシップを楽しむ事ができないからなのか、けっこう長い休暇を確保しており、子供のように一緒に遊んでくれる。
もちろん、アスランも一緒に。
傍から見れば、大きな子供と小さな子供が2人、3人で遊んでいるように見えるほど、キラの父親は、楽しそうに遊び相手になってくれる。
だから、この日も、いつものように楽しい時間が過ぎるはずだった...



ドン、ドン、ドン...

「ガキを出せぇ!!!!
 コーディネーターの、ガキが2人、ここにいるのは解ってるんだ!!!」

銃声と共に、鳴り響く男達の怒声。
飛び交う銃弾の中、キラとアスランはキラの母親によって身を隠し、逃げていた。
自分たちを庇って左肩を打たれた父親はどうしただろう。
母に連れられる時には、その父の手に、しっかりと一丁の拳銃が握りこまれていたのを見た。
だから、大丈夫。
そう、自分に言い聞かせるも、言い知れない不安がキラを襲う。
不意に、応戦するかのように僅かに違った銃弾の音が、掻き消え、これまで聞こえてきた銃声が音もなく、静かになった。
自分たちを抱えるようにして、勝手口から外へと出た母親は、今にも泣き崩れそうなほど、痛々しい表情をしている。
声をかけようにも、どう声をかけていいものか、わからなかったキラとアスランは、ただただ、見ていることしかできないでいた。

「...キラ、アスラン君。」
「「っはい!」」

静かに、1度目を閉じ、再び開けたキラの母親の瞳には、強い意思の光が彩られていた。
何かに耐えるかのような声音で名前を呼ばれ、反射的に返事をした2人に、ふわりと、優しく、どこか儚い笑みを浮かべ、2人を抱き締める。

「あなたたちは、絶対に、生き延びるのよ。
 こんな理不尽なことで、死なせてなるものですか...」
「お母さん......」
「おばさん......」
「よく、聞いてちょうだい。
 これから先、もっと辛い事があるかもしれないわ。
 けど、絶対に、真実を見誤らないで......
 あなたたちは、ヤマトとザラの息子です。」



これが、キラの母親の、最後の言葉となった。
外へ出たことを知った、黒いスーツを纏った男達が、キラの母親を、2人の目の前で射殺したからだ。
その細い、小柄な身体に、幾つもの銃弾を打ち込まれ、ただの魂の器へとなったキラの母親。
子供心に、彼女の言葉を心の中へと納め、溢れ出る感情に身を任せた。
その直後、2人の視界に飛び込んできたものは、無数の鮮血の紅と、倒れている黒服の男達。
6人いた男達は地に伏しており、辛うじて被害が少なかったもの意外は皆、内臓や骨が飛び出していた。
被害が少なかった、といっても、骨は確実に数本折れており、呼吸もままならないものもいる。

「化け物......化け物だぁ~~~~~!!!!!!!
 やはり、貴様達は、始末すべき危険因子...!!!」
「蒼き、清浄なる、世界のために...!!!!」

被害が少なく、脚や腕の骨折だけで済んだ男が、狂ったように叫び始めた。
意識の残っていた数名の男は、その一言だけを残し、命を落とす。
両手を真っ紅な鮮血に染め、男達の返り血は全身に降り注いでいる。
虚ろな瞳で、己が手の鮮血を見詰め、2人同時に、意識を手放した。
その閉じられた瞳から、1粒の涙が流れ落ちる…



「アスラン!!!キラ君!!!
 ごめんなさい、ごめんなさい.........!!!」

泣き叫ぶ、という表現がぴったりなほど、取り乱した女性が静寂に包まれた病室に1人。
2人はあの後、騒ぎを聞きつけた隣家の通報により、病院へと運び込まれた。
1人、狂ったように叫んでいた男は、キラたちが気を失った後、自分の持っていた銃で頭を打ち抜いて、自殺を謀り死亡した。
今回の一連の事件は、ブルーコスモスが起こした事件と見なされ、処理している。

取り乱し、アスランの眠っているベッドに顔を伏せ、泣いている女性は、レノア・ザラ。
アスランの母親だ。
近隣の家の者たちによって、知らされた事実に驚愕し、急いで仕事場から戻ってきた彼女は、キラの家にて、無残に息絶えているヤマト夫妻を見つけ、その瞳を一度は涙で溜めた。
そして、その涙が、ここにきて、一気に溢れ出したのだ。


「...は...母、上......?」
「っ!!アスラン!?」
「母上......」

俄かに震わせた瞼をゆっくりと開き、翡翠の瞳がレノアを捕らえる。
焦点の定まっていなかった瞳に、徐々に輝きが取り戻された。

「ごめんなさい、アスラン...!!!
 ごめんなさい......」
「母上...どうして、母上が謝るのですか...?」
「全ては、私達のせいなの......だからっ!!!」

ごめんなさい、と何度も謝る母を慰めながら、どこか客観的に見つめる自分がいた。
キラはまだ、目覚めない。
当たり前といえば、当たり前だ。
自分と違い、両親を殺されてしまったのだから...
キラの母親が殺されるところを一緒に目撃した自分にとっても、相当衝撃的な事実だったのだから。

「ぅ...はぁっ!!
 と、ぅさん......母、さん............アスラン!!!!!
 ぃやだぁぁぁぁあああぁぁ...!!アスラン!!!」

焦点の定まらぬ瞳を見開き、叫ぶようにして音にされる言葉。
それは、キラから発せられる言葉で、キラは未だ、意識を取り戻していなかった。

「キラ君!?」
「キラ!!!」

暴れ出すキラに驚き、アスランとレノアは急いでキラへと駆け寄った。
アスランは、キラのベッドへ乗り上がり、キラを起こす。

「キラ!?
 キラ、起きて。キラ!!!!」

錯乱するキラの頬を捕まえ、自分の方へと向けさせ、キラの紫紺の瞳を捕らえる。

「僕はここにいるよ?
 ここにいるから!!!!」

必死に、拙いながらもキラに話し掛け、瞳を覗き込む。

「ア、スラン......?」
「うん。僕はここにいるよ。」

焦点を取り戻したキラの瞳から、涙が溢れ、ひとつ、ふたつと、流れ落ちる。
次第に、堰を切ったかのように、止め処もなく涙が零れてきた。

「アスラン...アスラン、アスラン、アスラン.........!!!」
「うん。」
「父さんが...母さんが.........!!!」
「うん。」
「ふぇっ...!!ぅっく、...ふ...っ!!」

今、キラがどんな言葉を欲しているのか。
わからないかけでもなかったが、アスランはキラの言葉を聞くだけに専念した。
言葉を返すわけでもなく、ただ、キラが吐き出す言葉に相槌を打つ。
抱きついて離れようとしないキラを見て、アスランは涙と一緒に、嫌な思いも全て、流れていけばいいのに、と、ただただ願うばかりだった。
かける言葉もなく、そっとレノアが部屋を出て行くのを確認して、アスランも、人知れず、涙を零すのだった。


優しい子供達だから、心を痛め、涙を流す。
アスランとキラが、いったい彼らに、この世界に、何をしたというのか。
ただ、生を受け、この世に生まれただけなのに。
彼らを危険因子に追い込んでしまったのは、自分達のエゴなのに。
この世の理不尽さに身を震わせ、堅く握られた掌からは爪が食い込んだのか、血が滴り落ちる。
このとき、レノアの瞳には、決意の色が彩られていた...
彼らを待ち受ける運命の歯車が、音を軋ませながら鳴り響くのを、2人は感じた...







□-◇あとがき◇-□

いつになくシリアスです。
はい。
私としては、キラの父&母をきちんと名前で出したかったのですが、アニメを見る限りでは名前が出てこず、かといって、名前を自分でつけてしまっていいものかと思ったので、そのまま代名詞『父』&『母』で使わせてもらいました。
確かどこかのサイト様で、キラの母の名前だけでてた気がしないでもないのですが、本当に合っているのか確かめる術を持たぬ織山なので、レノアさんだけ、きちんと名前出しました。
まぁ、キラの父&母も重要な人物でしたが、それ以上にレノアさんは重要なので正当な扱いかと。
というわけなので、過去の話、続くようです。

さてさて。
皆様、キラがフレイに対して言った言葉を覚えているのでしょうか?
『目の前で銃で打ち抜かれてただの肉の塊を転がして欲しかった?』という言葉です。
まぁ、言わずもわかることでしょう。
というか、私に言わせないで下さい!!!(泣)
ここまでシリアスな展開、望んでたわけじゃないので、結構凹んでます。
私って、こんなにシリアスなモノ書けたんだ、と。

つか、読み直していて思ったのですが、私の小説って、何故かいっつも視点がコロコロ変わるのですよね。
普通に客観的(織山視点)かと思いきや、いきなり『自分』という言葉が入り、それが誰を意味するのか、いまいち掴み難いものとなっています…ι
話の前後から読み取って下さると嬉しいです。