傷を負う心
キラの鋭い眼光と、放たれた言葉に、イザーク、ニコル、ディアッカの3人は真剣な面持ちで立ち尽くした。
とてつもない圧迫感、威圧感を醸し出すキラに対し、身体の奥底から竦みあがる感覚が全身を支配する。
無意識に震え出そうとする身体を叱咤し、キラからかけられる圧力に心ごと押し潰されそうになるも、何とか立っていた。
今まで、1度たりとも経験したことのないような威圧感。
その威圧感を作り出している本人は、とても涼やかに冷たく、残酷な笑みを湛えている。
ヒトを射抜くその瞳に捕らえられた3人は、身動きを取る事もなく、ただ立ち尽くす。
「好奇心だけで首を突っ込むと言うなら、今この場で僕が君たちを殺してあげる。」
「なっ...!!」
「キラ!?」
「だって、今僕に殺されるのも、後で巻き込まれて殺されるのも、同じだろう?
好奇心は、いつかその身を滅ぼす。
それに、足手纏いにしかならない。」
残酷な表情のまま、紡がれたキラの言葉。
耳を疑ったのは、イザークたちだけではなく、ミゲルやラスティもだった。
彼らは、いかにキラが冷徹で残酷だろうと、優しいと言う事を知っている。
だから、突然のキラの言葉に、大きく動揺したのだ。
当のキラは淡々と理由を説明した。
「...俺たちは伊達に紅を着てるわけじゃない!!
これまでに何度も覚悟は決めてきた!
だが、死ぬつもりも、全てを捨てるつもりも毛頭ない!!」
「僕も、イザークに同感です。
確かに好奇心は多少なりともあるかもしれません。
ですが、あそこまで話を聞いて、引くわけにも行きません。」
「俺たちは馬鹿がつくほどお節介みたいだからな。
仲間がわけのわからないことに巻き込まれているなら、それを助けるのも仲間しかいないだろう?」
キラの重圧を振り払うかのように、姿勢をただし、凛とした音を口にするイザークの表情は真剣なもので、アイスブルーのイザークの瞳がキラを捕らえた。
それに続くかのようにニコルが声をあげ、そしてディアッカも言葉を紡ぐ。
「...仲間.........?」
「仲間だろう?
俺たちと、アスラン、ミゲル、ラスティは仲間で、そのアスランたちがお前と仲間なら、俺たちもお前と仲間だろう?」
「っク...あはははは......!!!」
「アスラン!!!」
「ごめん、ごめん。
久しぶりにお前のそんな表情見たから、つい、な。」
真っ直ぐなディアッカの言葉に、一瞬呆けた表情をしたキラは、アスランの笑い声で拗ねた表情へと一変した。
全てはキラにより、圧力をかけられていたこの空間。
アスランにより、この部屋の空気が一瞬で穏やかものへと変化する。
「キラ。」
「...わかってるよ。
エザリアさん達の恩もあったから引かせようとしたけど…ホント、親子だよね。」
「母を知ってるのか!?
それに、“達”って...」
「知ってるよ。
僕たちが軍に入るのを最後まで心配して拒んでいたのが君達の親だったから。」
どこか遠い、憂いを含んだ瞳で語るように言葉を音にするキラはとても脆く、儚い存在に思えた。
「キラ。」
「わかってる...わかってるよ。
アスランやミゲル、ラスティが信用してるのも知ってるから。」
自分に言い聞かせるように、音を紡ぐキラは、一瞬にして傷ついたような表情から普段の笑みを伴った表情へと戻した。
無言のうちに伸ばした手をアスランは掴み、抱き寄せる。
背中を軽く叩き、子供をあやすかのように。
「アスラン...眠い...」
「もう少し寝てな?
説明は俺達がしておくから。」
2・3言、アスランに囁きかけたキラは、静かに瞼を落とし、寝入ってしまった。
寝入ったキラをベッドへと横にし、薄手のタオルケットをかける。
それと同時に部屋の扉が開かれた。
「あらあら。
勢ぞろいですわね。」
「ラクス。」
「私も居た方がよろしいかと思いまして、来てみましたの。
お邪魔でしたか?」
口調とは裏腹に終止笑顔で話すラクス。
その周辺にはいつものようにピンクの丸い球体が意味のない言葉を発しながら飛び交っていた。
ラクスのいきなりの訪問に、面を食らったような表情をしているイザーク達。
ミゲル、ラスティはラクスのために机に備え付けの椅子を用意する。
ありがとう、と笑顔で返し、優雅に座るラクスの膝の上に、ぽてん、とピンクのハロが着地した。
「ダメですよ、ピンクちゃん。
キラがお休み中ですからね。」
優しい声音で、悟すようにしてハロに話し掛ける様は何とも美しい。
癒しの歌姫、という異名にピッタリ合うような聖母のような姿。
だが、その実、アスランやキラに引けを取らぬほど、重い運命を背負う者でもある。
「キラは、お優しいですから。」
突然発せられた言葉に、呆然とラクスを見つめるイザーク達。
そんなイザークたちに視線を向け、にこやかに言葉を続けた。
「あなた達を巻き込みたくなかったのでしょう。」
「...お言葉ですが、そんな優しい人が、会って間もない私達に『今この場で僕が君たちを殺してあげる。』と、言うでしょうか…?」
「それはキラなりの優しさだ。
少なくともキラはどうでもいい人間に対してそんなことは言わない。
お前達を巻き込みたくないと判断した上で、牽制を兼ねて言ったんだろう。」
ラクスの言葉から、少しばかり言い難そうにしながら、顔を顰めたイザークが言葉を返す。
それに苦笑を交えながら、アスランが答えた。
「言ったところでお前達が引かない事はわかっていたけどな。
それより、いつまで突っ立ってるつもりだ?」
「あ、あぁ。
椅子を借りるぞ。」
アスランの最もな指摘に、今の今まで自分達が立ったままだった事に気付いた3人は、適当に椅子を借り、各々に座った。
几帳面に座るニコル。
足を組み、腕を組んで座るイザーク。
背もたれを前にして椅子を跨ぎ、寄りかかるような格好で座るディアッカ。
三者三様の座り方に、個性とはこういうところで出てくるものなのかと、客観的な思考を巡らせていたアスランは、キラが眠るベッドの淵に腰をかけた。
ミゲルとラスティはその隣の使われていないベッドに腰を下ろす。
アスランの前方にニコル、そのニコルの左側にイザーク、ディアッカと座っており、ディアッカの正面にはベッドに座っているミゲル、ラスティがいる。
ラクスは、アスランが座っているベッドとミゲルたちが座っているベッドの真ん中にいるという、話を聞く者と、話す者が対面するような形をとっている。
「さて、聞きたいことにはある程度なら答えてやるよ。
何が聞きたい?」
「話して、くれるのですか?」
「キラが、お前達を信用したからな。
さぁ、何が聞きたい?」
どうやって会話を切り出そうか悩んでいる3人に、アスランはあっさりと言葉を紡いだ。
驚愕の色を隠せないと言った風に、表情を変えたニコルが眠るキラを視界に入れ、恐る恐る疑問を口にする。
当然問言えば当然の反応だ。
先ほどまで、キラは自分たちを巻き込ませないようにと渋っていたのだから。
それをアスランは至極あっさりと打ち破り、同じ言葉を再度紡ぐ。
そのアスランの言葉に、少しばかり、嬉しいものを感じ、ニコルはアスランを見据えた。
「それでは...まずは簡単な質問から、聞かせてもらいます。」
いいですよね?と、イザークとディアッカを見れば、2人とも口を挟まず、無言で肯定を返した。
こういうとき、的確な質問をするのは一番年下のニコルだということを2人は知っている。
だから、口を挟まず、聞くことだけに専念しようと決めたのだ。
「まずは、キラさんとアスランの関係について。
先ほど、ミゲルとラスティに、キラさんについて少しばかり聞きました。
幼馴染、ということですが、何かそれ以上のものを感じるのです。」
「...ニコルは、洞察眼が優れてるな。
確かに、俺とキラは幼馴染だ。
そして、それ以上の関係でもある。
......客観的に見て、お前達に、俺達はどう見える?」
「...友達以上、若しくは、恋人以上かと…
親愛というよりは、恋愛に近い感情を抱いているようですが、もっとそれ以上の何かを持っているように感じました。」
「流石、ニコルだな。」
真剣な表情で話すアスランに、ニコルは率直な意見を述べた。
当たらずとも遠からずなその言葉に、感嘆の声をあげ、アスランは3人を見据えた。
「一言で言えば、依存しあっている。
俺とキラは、ある事件により、互いに依存するようになったんだ。
互いの存在がなくなれば、生きていけないほどに...」
「ある事件、とは...?」
「その事件を話せば、もう、後戻りはできない...
それでも、いいんだな?」
念を押すアスランの言葉に、無言で首肯をすることで、肯定の意を伝えた。
ぽつり、ぽつりと、話し始めるアスランの声を聞きながら、静かに耳を傾ける。
これから先、どんな未来が待ち受けているのか...今の彼らには、知る由もなかった...
□-◇あとがき◇-□
なにやらキラの忠告が長引いてしまい、途中半端に過去の話を持ってきていいものか悩んでしまったので、急遽、過去の話は次回に回す事を決めました。
なので、だらだらと話の進まない話を書いていたのですが、上手く繋がりそうなのでよかったです。
それにしても、題名の『傷を負う心』ってあんまり関連のないような気がしてしょうがないですι
一応、キラのことだったのですが...
多分、わからないでしょうね...ι
まぁ、今回は黒に徹し切れなかったキラでしたし...
次は本当に最初(現在のアスランのセリフが入って)から最後まで過去の話となるでしょう。