はじめまして、こんにちは。


「それでは、アスラン君もぐっすり眠っていることですし、この話は一旦終わりにしましょう。
軍務がある者は所定の位置に。
それと、キラ君。」
「はい?」
「あなたはアスラン君と一緒にぐっすり休みなさい。
 最近、ちゃんと寝れてないんでしょ?」
「え!?
 でも…僕まだっ、」
「艦長命令です。」

粗方のアスランとキラの関係を聞き、話も一段落したところでマリューが切り上げを提示した。
それによりドア付近にいたクルー達は挙って己の勤務場所へと戻っていく。
ナタルも長時間ブリッジに艦長、副艦長の両名が離れていることを良しとしなかったのか、マリューに視線で訴え早々と食堂を後にした。
つなぎの言葉と共に名前を呼ばれたキラは疑問符を浮べながらも小首を傾げて、返事と取れなくも無い語尾上がりの返答を返すと、穏やかな笑みで以って休息を言い渡されてしまった。
それに反論を返そうと口を開けば、さらりと笑顔で言いのけられた命令。
あまりにもいい笑顔にあっさり言われた命令に、頷かないわけにもいかず、キラは苦笑を洩らしながらその好意に甘える事にした。
実際のところ、最近よく眠れていないのは事実だった。
ヘリオポリス崩壊から早数週間。
わたわたと時が過ぎ、慣れていない戦艦生活で、どうにもちゃんと睡眠が取れているとは言い難かった。
だからなのか。
今腕に、暖かな存在があるというだけで。
気持ちよく眠る彼に誘われて。
穏やかなまどろみが、今か今かと迫りつつある。
油断すれば今まさにこの瞬間、こっくりこっくりと舟を漕ぎそうな勢いだ。
そんな自分に苦笑をしつつ、キラはマリューに「起きたらアスランに自己紹介させますね。」と
一言言い置き、己の部屋へと向かった。


「本当に、ちょっと、眠い、かも…」

無重力を漂い部屋に着き、ロックを解除して中に入る。
ふよふよと力なくベッドに近付き、倒れ込むようにしてベッドイン。
アスランを抱え、しっかり背中からベッドに沈む。
スプリングが軋む音が響き、アスランの寝息が届き、睡魔が襲い。
軍服を脱ぐのも億劫になるくらいキラの意識は陥落しそうで崖っぷちだ。
それでも何とか軍服を脱ぎ捨て、シーツの海にアスランを下ろし、自らも無防備に落ちていった。















「ちょっと、フレイ!!
 そんなに急かさないでよ!!」
「だってあのキラが寝坊よ!?
 ということは、寝顔を覗くチャンスじゃない!!!
 これを逃す手はないわよ!!!」

些か喧騒とも取れる音量で言葉を交し合っているのはミリアリアとフレイの二人。
彼女達は滅多に寝坊をすることのないキラを起こしに行くという名目のもと、あわよくば寝顔を拝借。なんて考えていたりして、現在その話題の中の人であるキラの部屋の前にいたりする。
普通ならば起きてしまうのでは?と危惧してしまうほど大音量を上げながら。

「入るわよ!!ミリィ。」
「えぇ!!

 おじゃましまぁ〜す。」

扉の前で拳を作り、意気込んで。
いざ、出陣。
力いっぱい扉を開け、小声で挨拶。
寝ているであろう部屋の主を気遣っているのかいないのか。
判らないところが彼女達らしい。
キラが起きていればそう思うだろうことも、只今睡眠中の為その思考は敢え無く流された。
静寂の包む室内の、ベッドが一つ。
中心部分がぽっこりと膨らんでいる。
それはキラがまだ寝ている事を現しており、必然的に一緒に寝かされているであろうアスランも起きていない事を示していた。
その事実を二人でこっそり笑い合い、足を動かした。
抜き足、差し足、煽り足。
じゃなくて、忍び足。
そんな風にして、そろりそろりとキラの顔が見れるだろう位置まで静かに近付いた。
実は、二人にはキラの寝顔を見たことがなかった。
そこは男と女という異性同士だから。ということも理由に含まれているのだが、実際のところ、キラが寝ているのさえ、見たことがなかったりする。
キラは人前では決して寝ない。
たとえ寝ているところへ近付いたとしても、人の気配に酷く敏感で、どうにもこうにも起きてしまう。
だから、こんなにも規定の時間を寝過ごして、更に他者の侵入を察知できないほどに眠っているキラが物珍しくて、同時に嬉しくて。
嬉しさから競り上がって来る感情が顔を緩ませるのを感じながら、
二人はそっと、キラの寝顔を覗き込んだ。

視界に入ってきたのは、シーツの白の上に散らばる、柔らかそうな鷲色と宵闇色。
黄色い悲鳴を上げそうになるのを互いの手で口を塞ぎ合いながらどうにか留め、未だ夢の中へ浸りきっている二人を捕らえ続けた。
今、アスランはキラの抱き枕状態と化しており、抱き込まれたアスランはもちろん、そんなアスランを抱き締めて眠るキラも、年相応の、若しくはそれ以下の屈託のない幼い寝顔を晒している。
実のところ、未だ以って起きてこないキラを起こしに来たミリアリアとフレイであるが、こんなにも気持ち良さそうに寝ているキラとアスランを起こすのが忍びなく思えてくる。
そう思いを巡らし、沈黙が続く中、先に動いたのは寝ているアスランだった。

「ん…、んぅ………」

小さく唸って、寝返りを打って。
睡眠が足りたのか、薄っすらと重い瞼を開けた。
その綺麗な翡翠の瞳は焦点がまだ合っておらず、一歩離れた、けれど近くにいる二人のことを視界に入れる前に、ベッドヘッドに置かれた時計を視界に入れた。

「むぅ………10時、半…?」

上体を起こしたアスランが時計の針の指す時間を正確に読み取り、回っていないであろう頭で呟かれた言葉の意味を処理する。
それでも、寝起きは余り良くないのだろう。
眠そうに瞼が落ちるのを何度かの瞬きで以って相殺し、己の腰の上に乗っかった腕を伝ってキラを視界に捕らえた。

「キラ、キラ…起きて、キラ。」

キラの肩を揺すり、キラの覚醒を促そうとするアスランのほうも、今にも眠りに落ちそうで。
それでも懸命にアスランは起こそうとしていた。

「ん…、後5分…」
「ダメだよ、キラ。もう午前が終わっちゃう…」
「まだ、大丈夫だから。一緒に、寝よ…?」

眠そうだけれども一生懸命なアスランに、蕩ける様な口調と笑みを向け、起こしていた小さな上体に腕を絡めてキラは強引にアスランを布団の中へと誘った。
大人と子供という明確な体格差の前ではアスランはされるがままで。
布団に引きずり込まれる前に、一瞬だけ、自分たちを見下ろす二対の瞳と視線が交差した。

「!?
 き、キラ!!起きて、離して!!」
「んぅ…、どうしたのさ、アスラン。」

先ほどの寝ぼけた声音とは一転して、どこか切羽詰まったような必死な声でアスランはキラを呼んだ。
それに訝しく思いながらも声だけはアスランに向け、意識は夢の中へと旅立とうとしていると、アスランの慌てた声はまだ続いた。

「…っ、人がいる!!!」





その後、わたわたと、目に見えて慌てだしたアスランをキラが容易く離すわけもなく、未だ一人、夢現に浸っていたキラを覚醒へと導いたのは、感極まったといった風に声を大にして張り上げたフレイとミリアリアだった。
あまりの大声に、キラとアスランは二人揃って硬直し、しばらくの間、何処からか持参してきたミリアリアのカメラの餌食となった。
因みに、ばっちりと寝顔まで撮られていたことを、二人は知らない。

「えっと...自己紹介が先だよね。」

硬直から解けたキラが一旦二人を部屋から追い出し、着替えを済ませてから昨日と同じ、食堂へと場所を移した。
その際、今日行うはずだった午前の業務について格納庫にいるマードック曹長と、ブリッジにいるマリューへ謝りの通信をいれている。
今現在、時間は十一時近く。
早めに休憩となった一般兵があちらこちらに見られ、その中にナタルもいた。
キラたち四人が食堂へ入った瞬間、視線がキラの足元にいるアスランへと集中していて、ちょっとした緊張がその場を覆った。
昨日食堂でキラの話を聞いていなかった者も、人伝に聞いたのであろう。
みんな、アスランの境遇を知っていて、様々な意思を持った視線に晒された。
だが、当のアスランは無表情でその視線をかわしている。
アスランの持つ『ザラ』の名のせいで、幼い頃から好奇の視線を受け続けたアスランにとって、人の視線に晒されることは慣れっこだった。
キラと離れたこの二年で、更に慣らされたのだろう。
幼い子に不釣合いな、我関せずの無表情が何処となく痛々しかった。

「さ、アスラン。」
「...はじめまして、アスラン・ザラです。」
「はじめまして、アスラン。
 私はミリアリア・ハウ。ミリィって呼んでね。」
「私はフレイ。フレイ・アルスター。
 はじめまして、アスラン。」

無表情で自己紹介したにも関わらず、『ザラ』の名を気負う事無く笑顔で自己紹介をしてくれ、あまつさえ、『アスラン』と名前を呼んだミリアリアとフレイに、アスランは驚愕と照れとでキラの足の後ろに隠れてしまった。

「アスラン?」
「どうしたの?」
「ほら、アスラン。
照れてないで出ておいで。」
「照れてるの?
あ、もしかして人見知りする?」
「人見知りは全然しないんだけどね。
 たまに、自分を個人で見てくれる人がいたりすると照れちゃうんだ。
 親や僕たち以外にアスランを名前で呼ぶ人って少ないから、慣れないんだよ。」

アスランの突然の行動に、驚いた二人はキラに説明を請うような視線を送った。
それに答えながらキラはアスランを何とか前へ出そうと試みる。
それでも出て来そうにないアスランに、ミリアリアは同じ視線になるように屈んでみた。

「私たちの名前、覚えた?」

ミリアリアは極力優しく、笑顔でアスランに話しかけた。
おずおずとキラの足から顔を覗かせたアスランは、彷徨った視線をキラに向ける。
向けられた視線に、優しく微笑んであげれば、自ずから前へと歩み寄って。

「私たちは覚えたよ?アスラン。
 アスランは?」
「...覚えてる...
ミリアリアさんと、フレイさん。」

確かめるように、目の前のミリアリアと、ちょっと上の方にあるフレイに視線を合わせて名前を紡いだ。

「うん。
半分あたりで半分はずれ。

私のことは?」
「ミリィ、さん?」
「さん付けはいらないよ。」
「じゃぁ、ミリィ、ちゃん?」
「可愛いなぁ!!」

小首をちょっと傾げながら名前を呼ぶ姿が可愛かったのか、ミリアリアはアスランを思い切り抱きしめた。
突然の抱擁に、びくっと身体を震わせたアスランだったが、一瞬後に開放され、真正面から顔を覗き込むようにして、ミリアリアが言葉を紡いだ。

「今日から私たちはアスランの友達だよ。
 よろしくね。」
「...友達?」
「そう、友達。
 よろしくね、アスラン。」
「...友達...
 うん。うん!
 よろしくね、ミリィちゃん、フレイちゃん。」

ただ、ミリアリアとフレイの言葉を復唱していたアスランは、やっとその言葉の意味を理解したのか、年相応な屈託のない笑みを浮かべた。
その笑みが、目の前のミリアリアとフレイのみならず、食堂にいたクルー達、ひいては食堂の食膳係りの心を鷲掴みにしていたことを知る者は、キラしかいなかった。

↑ PAGE TOP

About link

[Name] HeLlo,WoRld!
[Master] 織山真咲
[Address]
http://xxxcage.tudura.com/

HeLlo,WoRld!