僕は君の、君は僕の。


アスランのしゃくり上げる泣き声が次第に弱まり始めた。
規則正しくアスランの背中を優しく叩き、泣くことを促せていたキラは、自分の肩口にある小さな頭をなでながら抱き、自らも立ち上がった。
一瞬下りた静寂を破ったのはアスランの小さな寝息で。
離したくないと、離さないというアスランの心を表すかのように、キラの軍服を小さな手が力いっぱい握っている。

「全く。
 昔から変わらないね、君は。」
「キラ…?」
「キラ君…?」
「あぁ、すみません。
 えっと…此処では話も出来ませんから場所を移しませんか?」
「…そうね。
 それじゃぁ、食堂へ行きましょうか。」

アスランに向け、呟かれたキラの言葉を皮切りに、今まで黙って遠巻きに見ていたミリアリアやマリューが話し掛けた。
他の面々もキラとアスランに視線を注ぎ、説明を受けたいといった表情で以って訴えている。
それに苦笑しながら、キラはマリューに場所の移動を提示し、一同は食堂へと場所を移す事になった。





「えっと…まず、何から話しましょうか?」
「その前に、その坊主、ベットかどっかで寝かせた方が良いんじゃないか?
 こんな間近で話してたら煩くて起きるだろ?」
「アスランなら平気ですよ。
 多分まともに寝れていないだろうし、逆に今この手を離したら直ぐに起きてしまいます。
 それに、たとえ他の場所で寝かせていたとしても、近くに見知った相手がいなければ不安になりますし。」
「ま、それもそうだな。
 で?お前さんとその坊主との関係は?」

マリューやフラガ、ナタルが各々着席したのを見計らい、キラが話を切り出そうとしたとき、フラガから、キラを慮っての言葉がかけられた。
確かに、今のキラは抱きついて眠るアスランを腕に抱いて椅子に着席していて。
当たり前だが食堂ではモノが浮かない程度に重力はかけられている。
ということは。
アスランの体重に重力を乗法した分だけの重さがキラにかかっていることになる。
それに、こんな間近で会話などすれば起きてきてしまうのではないだろうか。
そう、気遣うフラガだったが、キラの言うことにも一理があるのでこれ以上何も言えず、話の先を促すに留めた。
促されたキラは1つ頷き、静かに口を開いた。

「一口に言ってしまえば、兄弟みたいなもの、です。
 僕は2年前まで月に住んでいて、その隣家がアスランの家だったんです。
 アスランの家はプラントにもあるんですが、母親の仕事の都合上月に引っ越してきたそうです。
 父親はプラントの重役でしたから、月に移住がでずきず母子二人でした。
 アスランの母親と僕の母親が古くからの知人で、母親の仕事が忙しいときはうちでアスランを預かる事になったんです。
 それで必然的に一緒にいる時間が増え、兄弟みたいに育ちました。」

自分の胸元辺りにあるアスランの髪を優しく梳きながら、キラは思い出を振り返り言葉を紡いだ。
その表情はどこまでも慈愛を含んでいて。
キラがどれほどアスランのことを大切に思っているのかが窺えた。
そして、キラに抱かれ、安心しきった表情を覗かせるアスランも、如何にキラの事を信頼しているのかが窺い知れた。

「ということは。
 この坊主、どこぞのボンボンだったりするのか?」
「…パトリック・ザラを、ご存知ですか?」
「ザラ…?
 あ、ああ。プラントの現国防委員長だろ?
 それが今………!?」

それが今、何の関係があるのか。
そう先を続けようとしたフラガの表情が見る見るうちに強張っていった。
キラが口にした名前の意味を正確に受け取ったのだろう。
マリューやナタル、他の世界情勢に詳しい者達の顔色もどんどん変わっていく。
対するキラは、一人のほほんと、それでいてどこか悲しそうな表情をしていて。
キラの友人。トールやミリアリア、カズイはその人名に心当たりがないのか、頭の上に疑問符をいっぱい飛ばしている。
サイとフレイは流石に親が国を動かす立場の人間だったためか、僅かにフラガ達同様顔色を変化させていった。

「御察しの通り、パトリック・ザラはアスランの実父です。」
「穏健派の、パトリック・ザラが……殺されたっていうのか…?」
「アスランの言う事が本当なら、そういうことでしょうね。
 そして、きっとそれはプラントで行われた。」
「!?」

キラの紡ぐ言葉に、周りは皆、驚愕しか感情が湧いてこない。
否、推測の言葉を口にしながらも、断定して言い切るキラ自身に思考が付いてこないのだ。
絶句している周囲の者をざっと見渡し、キラは沈痛な面持ちで口を開いた。

「突発的なことがなければ、あのパトリックさんが民間船、しかもあんなに大きな船にアスランを乗せる事は絶対にしません。
 レノアさん、アスランのお母さんが、ユニウスセブンで亡くなったとアスランは言いました。
 パトリックさんはきっと、周りは皆コーディネーターで、ナチュラルは入ってこれないから、プラントにいれば大丈夫だと思ったはずです。
 それなのに、パトリックさんはブルーコスモスに殺された。
 そして、執事のロナさんがアスランを連れ、プラントを飛び出した。

 先ほど、頼まれて民間船の名簿をあの船に残っていたデータからサルベージしていたのですが、 その中に、アスランとロナさんの名前はありませんでした。
 本当に急だったのでしょうね。」
「ひどい…っ!」

もしかしたら、アスラン自身もパトリックの息子として狙われていたのかもしれない。
暗に言いくるめたキラが言葉を紡ぎ終えた瞬間、あまりにも小さな子供が体験するには残酷なことばかりで、ミリアリアは瞳に涙を浮かべ、トールに縋りついた。
トールも、カズイも、他の大人たちも。
皆、一様に穏やかな表情で眠るアスランを沈痛な面持ちで見つめた。

「これから、どうするんだ?」

痛みを耐えたような表情で、フラガがキラに問いた。
その言葉の意味は、これからのアスランの処遇について。である。
この船は、戦艦であって民間船ではない。
今はまだ穏やかで、戦場にいるとは思えないほどの和やかさを見せるこの船だけれども、一度戦闘が始まりを告げてしまえば、それが一変する。
明日、生きているか危い状況下まで変化する。
それがこの船であり、ここの軍人たちだ。
キラもそれを充分理解している。
だけど。

「アスランは、このまま此処で、僕が保護します。」
「っ、キラ君!?」
「それがどんなに危い決断かは僕も理解していますし、オーブの母に預けた方がいいともわかっています。
 けれど…

 きっとアスランはそれを望まない。」

伏せた瞳を、強い光で以って真摯に見つめ返して紡がれたキラの言葉は、ただ、本当に、答えを知っているかのように迷いも戸惑いも無かった。

「アスランは、一度縋りついてしまったら、易々と掴んだ手を振り払えないんです。
 
 だから、格納庫で僕を拒絶した。
 
 泣きたいのに、縋りつきたいのに、弱さを曝け出したいのに。
 小さな身体で大きな虚勢を張って、耐えて、自らを制御して。
 やっと、掴めた手を、僕から振り解いてしまったら、きっとアスランは二度と感情を表に出す事ができなくなってしまう。
 僕は、そう思います。」

ハッとするほど。
強い意思を、その紫電の瞳に乗せ、キラは言葉を紡いでいく。
アスランのために。
そして、自分自身のために。
掴んだ手を振り払えないのは、アスランだけでなく、自分も同じだから。
相手の存在を手放したら、きっと、自分はただの『感情』と言う名の其々の表情をただ浮かべるだけの人形になってしまう。

暗闇のどん底まで落ちた僕に、光をくれたのが君ならば、今度は僕が彼の光になろう。
君は僕の、僕は君の手を、しっかり握っていてあげるから。
この手を彼が、自分の意思で振り解くまで、僕は手を引いていてあげよう。

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