あなたと共に在ることを願う。


「僕は兄さんと一緒にいたいんだ。
 世界でたった一人の家族なのに、もう離れ離れなんて嫌だ!!」
「よく言った。
 アルフォンス・エルリック。」

聞きなれた、けれど『現実世界』では決して聞くことの無かったあの人の声。
アルフォンスがあの懐かしい鎧から出てきた時以上の驚きが、そして、それ以上の言葉では表しきれない感情が、エドワードの胸の内に溢れ出した。

「何て顔をしているんだ、エド。」
「大佐...なんで、あんたがここに...?
 向こう側の門は!?」
「私はもう大佐ではない。
 あちらの門はアームストロング少佐が何とかしてくれる。」
「何でここに来た!?
 答えろ、ロイ・マスタング!!」

驚愕に彩られていたエドワードの表情は、次第に険を含み始め、怒鳴りつけるかのように言葉を投げつけた。
それもそうだろう。
この世界は『鋼世界』と同じだけれど、全く異なる世界。
門を壊してしまえば、もう二度と帰ることは出来ないのだ。
それに...

「先ほど君の弟が言ったではないか。
 それに私は賛成でな。」
「だからって...この世界はあんたにとって、残酷なものでしか、ない...!!」
「ああ...そのようだな。」

周りで彼らの遣り取りを見守る顔ぶれを順々に目線だけで追っていった。
その中には当然『鋼世界』で命を落としたあの彼の顔もあるわけで...
思った以上に出てしまった低い声に動揺している事実を突きつけられ、幾分か冷静さを取り戻し、先を続けた。

「だが、私はどんなことがあろうとも、エドと一緒にいたかった。
 お前が生きていると知って、どれだけ私が嬉しかったと思っている。」
「それは、こっちも同じだ。
 あの時、アルの身体を戻すのに精一杯で、あんたの安否なんて確認できなかったから。」

真摯なロイの言葉に、エドワードは彼にしては素直にこの二年間、内に燻っていた気持ちを吐露した。
そんなエドワードに、ロイは優しい笑みを向け、久しぶりに彼を抱きしめたい衝動に駆られるも、今やらねばならないことを思い出し、何とか理性で以てその衝動を抑え込むことに成功した。

「久しぶりの対面をもう少し満喫したいところだが、今はまずあの門をどうにか破壊しようじゃないか。」
「そうは言っても、この世界じゃ錬金術は使えないぜ?」
「そのことなんだが...本当に、錬金術は使えないのかね?」
「!?っ、...何が、言いたい...?」

先ほどの穏やかな空気とは一変して、エドワードやロイの声音も、二人の纏う空気も、真剣なそれへと変わった。
話の内容が理解できない周りの人々は、一変した彼らの空気を感じ取るも、ただ何事だと囁くことしかできない。
そんな周りのざわめきも意に介す様子も無く、エドワードとアルフォンスはロイの次の言葉を待った。

「確かな確証など一切ないが、もしこの世界で錬金術が使えないのなら、矛盾が出てくる。」
「矛盾...?」
「考えても見たまえ。
 向こうの世界で門は二度、開いた。
 一度目はリオールの街上空に。二度目は地下都市に、だ。」
「けど、地下都市の門は、僕がラースを人体練成して開けたんです。」
「だが、リオールの方で開いた門は、どうだ?
 向こうの世界の人間は誰一人、リオールで門を開けていない。
 ならば、どうして門は開いた?」

一つ一つ、門が開く前後のことを振り返ってみる。
告げられたロイの問いに、出てくる答えは一つしかない。

「こちら側が...俺が門を開けたから...」
「兄さん!?本当なの!?」
「そうだ...あの時、俺が門を開けた...
 そして、二度目は、父さんが開けた...」
「門は、人体を練成するときに出現する。
 エドの言うことが本当なら、こちら側でも錬金術は使えるということになる。」
「だが、俺は今日まで一度も錬金術は使えなかった!!」

半ば驚愕な表情をしていたエドワードだったが、ロイの言葉に、怒鳴りつけるかのように否定を示した。
『鋼世界』から持ち込まれた異物でさえ、使えなくなるのだ。
だからこそ、この二年間、色々と試行錯誤を繰り返したというのに、あっさりと、今まで絶対だった理屈がひっくり返される。
頭ではわかっているのに、エドワードのプライドがそれを良しとしなかった。
否、プライドだけの問題じゃないのだろう。
なぜなら、もし本当に錬金術が使えるのならば、今までしてきた行動に、意味がなくなってしまう。
憤り、悔しさ、哀しみ。
何に対しての感情なのか、わからなかったが、それらが綯い交ぜになり、なんとも言えない感情へと発展していく。

「...何か、この世界で練成の発動条件とか、あるのかな?」
「エド、何でもいい。
 覚えていることを全て思い出すんだ。」
「『何か』って言ったって、いつもと何も変わら...」
「...血...」
「ノーア...?」

エドワードの言葉を遮って、ノーアが一言言葉を紡いだ。
こちら側のアルフォンスの遺体を抱き上げた時に付着した血液はすでに乾いたのか、赤黒く変色してきている。

「あの時...一度目の門が開いた時、エドの血が練成陣に飛び散った瞬間、練成陣が光ったわ。
 そして、二度目...あの時も、エドのお父さんの血が大量に飛び散り、門が開いた...」
「ノーア...」
「あの門を、壊すんでしょ?エド。」
「あぁ。」
「なら、お願い。
 もう二度と、開かないようにして。
 もう二度と、こんなことのために、人が死ななくていいようにして。」

溢れる涙を堪えながら、ノーアは縋り付く様にエドワードに言った。
傍らに寝かされているこちら側のアルフォンスの遺体に視線を向け、エドワードは、ロイに意志の強さを窺わせる瞳を向けた。

「皆、俺たちは今から、この門を建物ごと破壊する。
 だから、早く避難してくれ。」
「!!お前達だけで、あんなもんを破壊するっていうのか!?
 それも、この建物ごとだと!?」
「二度とあの門を開かせない為にも、装置や資料ごと破壊するんだ。」

エドワードの言葉に一番最初に反応を見せたのは、ヒューズだった。
彼らの話は『現実世界』では廃れてしまっている錬金術に頼った話で、些かこちらの世界では常軌を逸している。
そんな彼らを取り巻くようにして立ち並んでいた者達は、突然エドワードに話しかけられ、即座に反応できなかった。
なぜ、錬金術なんて、出来もしない非科学的なことをこれからやろうとしている彼らを、こんなにも心配しているのだろうか。
エドワードとは顔見知りだが、今までお世辞にもそんな友好的な態度を取ったことは無かったはずだ。
それに、彼のそばにいる紅いコートを着ている少年も、眼帯の男も、自分とは初対面で、名前すら知らない。
そんな彼らに、自分が心配するような要素など、一つもないのに。
なのに、今胸を占めているのは、彼らへの心配。
“いつものよう”に無茶をしでかすんじゃないかという、心配と。
これから起こることへの、高揚感。
こんな、知らない感情に馴染みを感じる。
疑問は尽きることを知らないが、ただ、漠然と。
自分はこの空気、この光景、この顔触れを知っているのだと、理解した。
否、自分が知っている。というより、自分の魂が知っている。という感じに近い気がする。
ふと、そんなことを考えてしまえば、思い起こされていく魂の感覚に、自然と表情が挑発的なものへと変わっていった。

「...わかった。
 なら俺は、人々に被害が出ないように、全力を尽くそう。」
「サンキュー。」
「...私の名は、ロイ・マスタング。
 すまないが、ライターかマッチ...何でも良いが、火の起こせるものを借りたいのだが。」

何とか取り繕った笑みをヒューズに向け、ロイは話しかけた。
幾分か緊張してしまうのも、致し方ないだろう。
自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえ、嚥下する喉の音も、耳につく。
固唾を呑んで、見守るエドワードの耳に、ヒューズの声が届いてきた。

「そーか。
 俺の名前はマース・ヒューズ。軍人なんてものをやっている。
 ライターでよければこれやるよ。お前さんにならくれてやる。
 だから、何すんのか知らんが、無事に戻ってこいよ。
 そしたら酒でも飲み交わそうぜ。」

軽い笑みで以てライターを渡し、真剣な瞳で以て手渡した右手でロイの左肩をポン、と叩く。
その行動は、紛れも無く『ヒューズ』の行動で。
過ぎ去っていくヒューズを、ロイは笑みを作ることに失敗したような、そんな渋面で見送った。
自然と、隣へとやってきたエドワードが、ロイの背に軽く触れた。

「ロイ...」
「私は大丈夫だ。
 『この世界』で生きているのなら、今度こそ...」
「あぁ、そうだな。」





それから、エドワードとアルフォンスはチョークで練成陣を描き、その上に己の血を落とした。
両手を胸の前で合わせ、そっと、練成陣の上に乗せる。
見慣れた練成反応が起こり、空中に浮いていた門を壊した。
崩れながら、浮力を失い門だった残骸が落ちてくる。
全て落ちきったのを確認して、三人はありったけの火薬を残骸の周りに集めた。
その際、退路を確保するもの忘れずに。
準備が整った頃、ロイはヒューズから渡されたジッポのライターに己の血で練成陣を描く。
一呼吸置いて、指を弾く音が微かに響いた。
火薬に引火した炎が瞬く間に門の残骸を包んでいく。
確実に広がっていく炎を見届けて、三人はその場を後にした。

「ロイはこれから、どうするんだ...?」
「そうだな...軍に、入るだろうさ。」
「軍に?」
「人が人で在り続ける限り、戦争なんて終わらない。
 ならば、私が『あちらの世界』で成し遂げることの出来なかった野望を『こちらの世界』で叶えようではないか。
 それが、『あいつ』との約束でも、あるからな。」


見上げた空は、充分過ぎる程蒼く澄み渡り、妖美な程紅く染め上げられていた。

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