シフクノトキ
……シュ……クルン……パシッ……
……シュ……クルン……パシッ……
小気味好い音を立てながら親指を軸にして万年筆は回っている。
回している当の本人は心此処に在らずといった風に、ただただ目の前に置かれた書類を目に映していて。
ロイの傍らにいつも控えているホークアイ中尉は僅かに眉間に皺が寄りつつあった。
……シュ……バチッ……ボッ……
先ほどとは打って変わって小爆発の音が聞こえ、ロイの目の前にあった書類は灰と化していた。
理由はロイが万年筆を受け取りそこね、そのまま指を擦り合わせてしまったから。
無意識の出来事だったにもかかわらず、練成をしてしまったのは流石としか言えないだろう。
だが、それを見ていた有能な部下が黙ってはいなかった。
「大佐!!
それで、燃やした書類は何枚目になると思っているのですか!?」
「す、すまない。」
「ペン回しはあれほどしないで下さいって前々から言っていたでしょう!?」
一頻りロイへ非難の言葉を言い終えた後、新しい書類をもらってくると、ホークアイは部屋を出て行った。
閉じられたドアの外でホークアイと誰かが話している音が聞こえたが、自分に関係はないだろうと判断し、机に突っ伏した。
今ごろエドワードはどこを旅してどんな騒動を起こしているのだろう。
無茶をしていないか、体調を崩していないだろうか。
自分をもっと大切にして欲しい、と。
考え出したら切りが無いほどの思いが1つ2つと思い浮かぶ中、連日連夜の疲れが溜まっているのか睡魔に襲われ、そのまま身を委ねてしまった。
誰かが部屋に入ってくるのも気付かずに。
「大佐、大佐…?
何だ、寝てるのか。」
ドアの外で部屋を退出してきたホークアイと一言二言会話をし、部屋に入ってみれば、部屋の主は仕事部屋に突っ伏して健やかな寝息を立てて昼寝を決め込んでいる。
それが、エドワードが目の前に見ている情景だった。
先ほどまでホークアイがいたのだから寝に入ったのはそう遠くないはずだが、もうすっかり熟睡しているように見受けられる。
そのことに気付いたエドワードは思わず吹き出し、声を上げて笑ってしまったのだが、ロイに起きる気配は全く無い。
相当疲れを溜めていたのかと呆れてため息を1つつく。
いつもの軍務に加えて、自分達の求める賢者の石の情報を集めているということを知っているエドワードだから。
だからこそ、自分達のために、己の体調を省みないのはいただけない。
目的のためなら自らを押し通す感のある自分が言えたことではないのは百も承知だが、もっと自分の身体を大切にして欲しいと思う。
そう思っていても全てを背負い込んでくれる優しい人だから。
自分達の願いをも背負い込んでくれている優しい人だから。
だから、いつまでも隣にいて、背負い込んだモノを少しずつ自分にも分けて欲しいと願う。
今はまだ、こうしてロイの優しい寝顔を見るだけで安心する。
寝ている時と、自分といる時だけは、大佐という肩書きを消し去り、ロイ・マスタングという1人の人間として存在している。
それが、エドワードにとって嬉しいことだった。
寝ているロイの髪を指で軽く梳いてみる。
柔らかな髪が指の間をするするとすり抜け、頬や額に散らばっていった。
少し、煩そうに思え、かかった髪を邪魔にならない程度に軽くどかしていく。
髪の毛が柔らかいとか、睫が長いとか。
改めて気付かされ、堪らなく、嬉しさがこみ上げてくる。
眠り続けるロイを傍らで眺めるエドワードはこの上なく嬉しそうに微笑んだ。
2人の至福の時が訪れるのは、もうすこし後の話…
