ordinarily
「I shall be only too glad to lend the way.
喜んでご案内しましょう。」
「何やってんだ?快斗。」
「おかえり。新一。」
「あぁ、ただいま。」
工藤邸のソファで寛ぐようにして凭れ掛かり、手にしたテキストを流暢な英語で朗読していた快斗に、帰って来た事を告げる挨拶もそこそこに疑問を投げつけた新一は、言葉と共に快斗の手にしているテキストを己の手中に収めた。
それに対して何の抗議もないまま、快斗は人好きの笑顔で、座っている自分よりも高い位置にある新一の顔を見上げ、出迎えの言葉を口にする。
「英語、の問題集?」
「そ。
単語とか熟語、成句とかを扱ったテキストだよ。
明日、それのP86〜P103までの範囲で小テストをやるからさ。
真面目な快斗クンとしては、イッショーケンメーお勉強してたのです。」
「へぇ?
『一生懸命』って言っても、どうせ一通り読んだだけで終わりだろ?」
「まぁね。」
表紙の文字を目で追っていた新一は、表情を意地の悪いそれに変え、快斗の座っているソファの斜め右にある一人かけのソファに腰を降ろした。
同じように口の端を吊り上げた快斗にテキストを返し、快斗の前の、テーブルの上に置かれた快斗のコーヒーを口に含んでいく。
さも、当たり前のように。
「ちょっと、新一クン?」
「甘い、な。」
「そりゃ、ブラック派の新一に俺の砂糖とミルク入りのコーヒーが口に合うはずないじゃん。」
「仕方ない。
自分で淹れるか。」
飲み干した快斗のマグカップを手に、新一はキッチンへと入って行った。
どうやら快斗の分も一緒に淹れてくれるようだ。
それに気を良くして、快斗は手元のテキストを見る。
実際のところ、音読などしなくても暗記するだけなら造作も無いことで。
ただ、この家に独りだったからしていただけのこと。
文字を視線だけで追っていくと、ある一つの英文が目に入った。
「あ、新一にぴったりの例文がある。」
「何だ?」
「I was walking along the crowded street when all at once I heard a shrill cry.」
「............」
「な?まんまだろ。」
香ばしい豆の匂いを漂わせ、キッチンから二つマグカップを持って新一は先ほど座った一人掛けのソファに座った。
その表情は複雑そうで。
こんな例文を引っ張り出す快斗に怒っていいのか、こんな例文を載せるテキストに呆れていいのか分からない。というのが新一の心境だったりする。
その間も、快斗はしたり顔で新一が淹れてくれたコーヒーに砂糖とミルクを目一杯入れていた。
一息吐く為に、先ずは一口。
二人同時に口に含んだコーヒーは、新一には適度な苦味が、快斗には過度な苦味だったらしく、コーヒーがカフェオレの色を通り越して白くなるまでまたミルクを足している。
「おい、快斗。
もうそのくらいに...」
『きゃああぁあぁぁぁあぁぁああああ!!!!』
「...この例文、間違ってたな。」
鋭い悲鳴を聞くや否や飛び出していった新一に、一人ぽつんと取り残された快斗が呟きを漏らす。
一つため息を吐いた後、新一の置き去りにされた携帯を片手に快斗も現場へと走るのだった。
