■07.手を繋ごう
私を庇いながら進むその背中に、幾度手を伸ばそうとしたのだろう。
きっと、数え切れないほど、伸ばした手。
けれどそれは、私の意志により途中で止め、掌を硬く握り、押し留められた。
捕まえたかったあの背中は、もういない。
「――――ちゃ...ん、哀ちゃん!!」
「!!」
「哀ちゃん、どうしたの?
どこか具合が悪いの?」
「...いえ、ごめんなさい。
ちょっとぼーっとしてたみたい、大丈夫よ。」
「そう?
ならいいけど...
あ、でね、聞いて!!!元太君ったらね――――」
隣でしゃべり続ける歩美を笑顔で交わし、そっと壁に掛けられている時計に視線を向ける。
今の時刻は11時10分過ぎ。
時計は3時間目と4時間目の授業の合間にある休み時間を示していた。
いつの間に授業が終わっていたのか、哀の机の上には未だに教科書とノートが広げられたまま置いてある。
飛んでいた思考に一つため息を吐き、歩美の話に相槌を打ちながら次の授業の教科書とノートを机の中から取り出して左の隅に準備した。
歩美の話を耳に入れながら、先ほどの授業に思考を向ける。
次の授業ではそうならないようにと、自分の心に念を押した。
実年齢ではとっくに義務教育を終えている身なので、授業を聞かなくても全く問題は起こらないのだが、かと言って先ほどのように思考がどこかへ飛んでいて良い訳でもない。
考えていたことが暗いことだったために、沈みそうになる気持ちを誤魔化すよう、またため息を一つ吐いた。
その哀の行動をコナンが見ていたことに、哀は気付かなかった。
「じゃあね、哀ちゃん、コナン君!!」
「またな。」
「バイバイです、灰原さん、コナン君。」
放課後、いつもの分かれ道で、家の方向が違う三人と別れた。
工藤邸へ用があるコナンと、哀は必然的に二人きりになり、いつもの帰り道を歩く。
昼間の沈みそうな気持ちがまだ心を支配する哀は自然と無口になり、それほどおしゃべりな性質ではないコナンも口を開くことをせず、二人の沈黙が続いた。
取り分け気まずいと思うほどの沈黙ではなかったが、それが破れたとき、些かホッとしたのはご愛嬌だ。
沈黙を破ったのは、第三者。
明るくコナンと哀を呼ぶ声が、耳に届いた。
「コナン、哀ちゃん!!
今帰り?」
声と同じくらい、明るい笑顔を振りまいて。
学ランを良い感じに着崩した高校生が後ろから歩いてきた。
止まった足を、数歩動かして後ろを振り返る。
それと同時にしゃがんだ高校生は、茶目っ気たっぷりな笑顔を視界に映させた。
「お、快斗。
この時間にいるってことは、お前はサボりだな。」
「いきなり手厳しいのな、お前は。」
「本当のことだろ。」
コナンの言うとおり、小学一年生の下校時刻と高校生の下校時刻が合うはずが無い。
テスト週間とか特別なことがある日ならまだしも、今の時期ではそれもないだろう。
だから必然的にサボりと言う訳で。
全く悪びれもせず、肯定もしないが否定もしない快斗は、サボりだと断言しているようなものだ。
それが今に始まったことではないのだが。
取り敢えず、進む方向が同じ――快斗の目的地が工藤邸なので帰り道は一緒――だということで、並んで帰路を共にする。
いつもの事ながら、快斗が道路側を歩き、いつもなら、真ん中にコナンで左側に哀の順なのだが、今日は哀とコナンの位置が気付けば変わっていた。
おしゃべりな快斗が加わったことにより、他愛のない話が飛び交う。
それに時々相槌を打ちながらも、昼間から燻り続ける気持ちは未だ渦巻いていた。
少しずつ、俯いた頭と、緩められた歩調により、先ほどと同じ速度で歩く快斗とコナンとの間に半歩分距離が出来ている。
沈んだ思考に気が逸れていた哀は、それに気付かない。
先に行動に出たのは、快斗。
ぽんぽん
俯く哀の茶色い頭を、軽く数回叩いた。
突然のことに吃驚して、顔を上げれば、優しい笑みが振ってきた。
自然、ランドセルのベルトを強く握り締めていた手が緩む。
何を言うでもなく、快斗は哀の頭に乗せていた手を下ろし、手を繋いだ。
反対の手を、コナンが繋ぐ。
「手を繋げば、一緒に隣を歩けるデショ。」
ニッと口の端を軽く持ち上げ、視線を合わされる。
今まで燻っていた暗い思考が、霧散したように消えて、心なしか、暖かいと感じた。
繋がった手は、二人分の体温を感じさせた。
□-◇あとがき◇-□
...哀ちゃん溺愛話。
なんつって。
いやね、なんとなく。
このお題は哀ちゃんデショ。とか思って心行くまま書きなぐったのですが。
どうだろう。
お題のまんま、手を繋いじゃってますが。
軽く説明を入れると、過去に守られてばかりで、明美姉さんと手を繋ぐことが出来なった哀ちゃん。がコンセプト。っぽい?
本当は哀ちゃんから手を繋ぎにいって欲しかったのですが、私の妄想力と技量では無理でした。
取り合えず。
快斗サン良いとこ取りです(笑)
...微妙に哀ちゃん視点だ。
2006.12.13