■04.つまずいた身体
重い足取りで、もう使われていない廃ビルの非常階段を屋上に向けて進む。
新一のたてる足音だけが、この澄み切った静寂を突き破り、そよぐ風が、耳元で微かに響いた。
屋上へと辿り着き、目の前に立ち塞がる重厚な扉を身体全体で押し開く。
視界一杯に広がる暗闇に安堵の息を吐き、正面のフェンスに近付いた。
伸ばした両手は、ガシャン、と音をたて、金網を微かに揺らして強く掴む。
頭を垂れて一呼吸置いた後、左足を軸にして少しばかり反動をつけ、右手を離して今まで正面にあったフェンスへ背中を付けた。
そのまま凭れ掛かり、ずるずると座り込む。
見上げた空は、銀色の月が綺麗だった。

『何をしているのです?名探偵。』

聞きたいと思っていた声が、聞こえた気がした。

「ここなら、お前が見えるかと思って。」
『何を、迷っているのですか?』
「...今日の事件さ、深い悲しみがあったんだ。
 大切な人を失った憎しみじゃなくて、悲しみが。」

ぽつり、ぽつりと、新一は聞こえる声に言葉を返す。
フェンスを背に、座り込む新一の手足は投げ出され、顔は空に浮かぶ月を見上げたまま、声が届くように、瞳を閉じた。

「トリックを解いた後、彼女が自殺するつもりなんだと、気付いたんだ。
 止める事も、出来た。
 けど、俺は...そうしなかったんだ。」
『それは何故?』
「彼女が俺に、言ったんだ。」


「罪を犯した私はあの人と同じ所へはいけないわ。
 だけど、あの人にもう一度出会う為に、私はあの人の後を追う。」


この言葉を聞いた瞬間、新一は凍り付いた様に身体が動かなくなったのだ。
一瞬の躊躇いが、彼女を死に追いやった。
その事実が、新一にのしかかっている。

『あなたは、何を迷っているのですか?
 探偵としての在り方ですか?
 それとも、自分自身の在り方ですか?』

何の感情も浮かんでいない声が届く。
窘めるでも、慰めるでも、責めるでもなく、ただ淡々と。
言葉だけが、降り注いだ。

『間違えてはいけません。
 あなたが探偵をしているのは、唯の自己満足です。
 あなたが、自分で望んだことなのです。
 それにより、人の命が流れ落ちようとも、それは、相手が望んだことです。』

言葉が、微かな痛みを伴って凹んだ窪みにストンと落ちた。

『所詮、あなたも、相手も、唯の人間です。
 自分が望んだことに、他人の意思は介入しない。
 何が正しくて、何が間違いなのかを決めるのも、望んだ自分だけです。
 それであなたは、何を望みますか?』
「俺は......」

瞳を開けて仰いだ空は、どんよりと曇っていた。
声を張り上げて泣き出しそうな新一の心を写し取ったかのように、降り注がれる、雫。

「俺は、探偵であることを、望むよ。
 謎を追い求めた先に、誰も死なせないような、そんな探偵に。」

先ほどまで聞こえた声はもう、聞こえない。
それでいいのだと、新一は自分に言い聞かせ、立ち上がった。
この地球上、どこにいても、月は必ず昇るのだから。






□-◇あとがき◇-□

何気にKID死にネタ。だったり.........ゴメンナサイ。
どうしても、怪盗と探偵っていうスタンスを壊したくないと思いながら書いていたらこんな形に。
この小説の新一さんはKID=快斗という事を知りません。
んでもって、CP上では快新(この場合はK新?)でも、好敵手としての関係しか持ち合わせておりません。
親愛の情は強いものの、恋愛感情ではない...ハズ?
2006.10.04
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