新たなる出発点
閑静な住宅街で、とても穏やかな空気の流れる朝。
その雰囲気とは似ても似つかない叫び声が工藤邸に響きわたった。







「で?
 これは一体どういうことか、納得のいく説明を求めたいのだけれど?」

朝いきなり隣家に同棲している快斗からの呼び出しを受け、工藤邸へと駆けつけた哀は、渡されていた合鍵から家の中に入り、居るだろう思われる新一の寝室へと無遠慮に入り込んだ。
新一の寝室、というわけだから当然同棲している快斗の寝室でもあるわけで。
当たり前のように快斗は居るのだが、彼は今、鳩尾を抱え、痛みを堪えていて。
当然彼を攻撃した人物は新一しかいないのだが…
哀の視界に映るものはベットの上にぽっこりと膨らんだ白い塊。
何があったのかは定かではないが、彼はシーツに包まり天岩戸よろしく外界から遮断したいらしい。
その2つを目撃した哀により、先の言葉が発せられたのだ。

「とりあえず、服を着てから話してくれないかしら?」

ちらりと視線を快斗へと戻し、彼の姿を再度確認してから哀は言葉をかけた。
快斗の格好。
それは全裸、だったわけではなく、半裸だった。
哀に連絡したのは快斗だったので、取り敢えずはズボンを穿いたのだろう。
それでも上半身は裸なわけで、快斗は脱ぎ散らかしてあった服を掴んで着ながら話し出した。

「昨日はいつもどおりの新一だったんだけど、今朝起きたら…」
「ばっ、快斗!!」
「…………」

言葉と共に快斗は優しく新一からシーツを剥ぎ取り、哀に見せるかのようにして新一の背後へ回り腕を挙げさせた。
それに強く反論を示す新一だったが、哀は無表情で新一の身体を眺めていた。
否、内心では柄にも無く狼狽えていたのは間違いないのだが、それが表情として表に出なかっただけの事であり、哀の凛とした雰囲気は見事に崩れていた。

「あ、哀ちゃん…?」
「灰原…?」
「あら、ごめんなさい。」

いつになく狼狽えている哀に2人は戸惑いを隠せず声を掛けるとはっと我に返った哀から謝罪の言葉が飛び出してきた。
突然の事で彼女も驚いたのだろう。
苦笑の表情を浮べ快斗が哀を見やれば、彼女はその小学生の姿に似合わず科学者の顔になっていた。
その辺は流石だろう。
ある意味その切り替えが羨ましくもあると思考に耽っていたら凛とした声が耳に届いてきた。

「何となく状況はつかめたわ。
 それで?上のほうはわかったけど、下のほうは確かめたの?」
「流石にそっちの方は新一が恥ずかしがるかと思って哀ちゃんに頼もうかと。」
「そう、なら…」
「俺は下で朝食作って待ってるね。」

当人である新一が批難の目を向けてくるのを軽く流し、快斗と哀は会話を続けた。
快斗の選択は無難だと納得し、彼に退室を告げようとした瞬間、それを見越したかのように快斗は新一の腕をゆっくりと降ろし、哀の言葉を制すようにして部屋から出て行った。

「さて、それじゃぁ、工藤君。
 黒羽君も気を利かせてくれた事だし、色々調べさせてもらうわよ。」
「お、手柔らかにお願いしマス…」

ニヤリと人の悪い笑みを浮べた隣家の科学者は様々な観点から新一の身体を虱潰しに調べていった。










「完璧に身体は女性化していたわ。
 原因は十中八九、アポトキシンの解毒剤ね。
 どの成分が何をどうしてこのような事態を招いたかは定かではないけれど。」
「まぁ、人間を逆成長させる薬の解毒剤だから、
 行き成り性転換しても客観的には今更驚かないけど…」

淡々と分かったことを述べる哀に相槌を打ちながら快斗は思ったことを口にするも、新一のことを気にしてか言葉が続くにつれ段々と声が小さくなっていく。
チラリと新一を見やれば情けないやら哀しいやら疲れたやら…
様々な感情を漂わせ、ソファに突っ伏していた。

「新一の身体、元に戻すことって出来ないの?」
「無理ね。」
「…………」

新一のことを気遣い、提案を持ちかけるも、哀に一刀両断され、そんな2人の会話に新一はただ耳を傾けていた。

「確かに、元に戻すための薬を作ることはできるかもしれないわ。
 けれど、工藤君の身体が持たないわ。
 今の彼…彼女かしら?その身体はアポトキシンを初め、多用な薬の服用により抵抗力、免疫力が低下していて市販の薬は受け付けなくなっているの。
 風邪薬や頭痛薬といった私が工藤君用に調合したものなら大丈夫でしょうけど、体細胞の染色体に影響を及ぼすほどの薬は強すぎて命の問題になるわ。
 判って貰えたかしら?」
「………」
「……快斗は、どうしたい…?」
「…え?」

哀の説明を聞き一括り感情の収拾がついたのだろう。
今まで静かに聞いていた新一は徐に快斗に問い掛けた。
予想もつかぬ問い掛けだったため、少々ポーカーフェイスが乱れがちな表情で、間の抜けた返事を快斗は返していた。

「だから!!
 性別が変わっちまったけど、お前はずっと俺の傍にいてくれんのかって聞いてんだよ!!!」

半ば怒鳴りつけるかのようにして、新一は背を向けていた快斗の方に振り返り、いつもの表情が崩れがちな快斗を真っ直ぐに見つめ熱り立った。
その怒声に、快斗は一瞬呆気にとられていたが、すぐに頭が回転し意味を理解すると自然と表情に笑みが浮かんできた。

「俺は新一を愛してンだよ?
 たかが性別が変わっただけで新一から手を引くなんて薄情な男じゃないよ。
 それにしても…まさか、新一からプロポーズされるとは思ってなかったンだけど?」
「バッ!?プロポーズって…!!!」
「え~?
 だって新一言ったじゃん。
 『ずっと俺の傍にいてくれ』って。
 それをプロポーズと取らずにどう取れっていうのさ。」
「良かったわね、工藤君。
 彼にとって性別なんて些細な問題にさえならないみたいよ。」

真剣な話をしていたはずなのに、いつの間にやらいつもの彼らのペースに巻き込まれていることに気付いた新一は
未だ、「新一から逆プロポーズされちゃったよ。」などと哀とにこやかに話している快斗を見て、自分が悩んでいた事がバカらしくなってきた。

彼らにとって、新一が女になったとしてもただそれだけのこと。
今までの関係が変わるなんてことはないのだろう。
確かに本人である新一はこれからの不安はたくさんあるけど、彼らと、否、彼と一緒ならそんな不安も杞憂に終わる。

この日、新一は女として生きていくことを決めた。





「そうそう。
 工藤君の身体が女性化したということは子供も作れるということよ。
 無節操にポンポンつくらないで頂戴ね。
 ほっとくとハツカネズミ並に増えそうだから。」

哀のその忠告に、新一はほんの少しだけ後悔した。







□-◇あとがき◇-□

やってしまった新一女性化家族シリーズ。
何故に女体化と言わず、女性化と言うのかと申しますと、ただ単に『女体化』と音にした時の響きが嫌なだけだったりします。
まぁ、別にどっちでも良いんですけどι(好みの問題です。)

さてさて。
この話を書くに当たってのきっかけですが。
実のところ最近何故か異様に快新熱がヒートアップしまして。
そのためお気に入りサイトさん目指して廻りに廻ったところ、同じような設定で話を書いているサイトさんを見つけてしまってはまりました。
結構探すとあるんですよね、こういう話。
私の好みにミラクルヒットしたサイトさんは悉く閉鎖されてしまって…
今も健在のサイトさんを見つけるととても嬉しくなります。
んで、あーなってこーなってそーなって、漸くこの話を書くことになったのです。
(↑そんな説明じゃわからんて。)

まぁ、楽しめてくれるならば嬉しいです。