歪められたあなたとのキョリ


なぁ、お前は今、どこにいる?

こんなにも俺がお前を追い求めているのに、お前は俺の前に2度と姿を現さないつもりか?

俺は、お前だけいればいいんだよ。

俺から逃げるなんて、許さない。








“こんばんは、ニュースの時間です。
 本日未明、都内の廃墟ビルから男性3人の刺殺体が発見されました。
 男性3人を刺した刃物は見つかっておらず、警察は殺人事件として捜査を開始する模様です。
 男性の身元など、一切情報を警察側が遮断してしまったため、詳しいことがわかり次第、またお伝えいたします。
さて、次のニュースですが—————————————————————”

淡々とした口調で今日起こった事件を伝えるアナウンサーは他人事のような表情で、予め決められていた段取り通り、記事を読み上げていく。
『人類皆兄弟』なんて馬鹿げたことを言うつもりは毛頭ないので、仲間意識の薄い現代人にとって見てみれば、当たり前の反応だろう。
だが、刺殺体で発見された男達の仲間はどうだろう?
仲間を殺され、怒っているだろうか。
それとも、あの3人のように我が身にも降りかかる恐怖として怯えているだろうか。
答えは多分、両方だ。
どちらにせよ、そんな彼らが待ち受けるものは『恐怖』と『死』だけだ。
『彼』が己の所業に気付くまで、行われる『彼』へのメッセージが込められた連続殺人事件。

喉の奥から出される重低音の笑い声が部屋中に響きわたった。


さぁ、幕は上がった。
幕を下ろすのは、お前か、俺か。
血で塗りたくられた駆け引きの始まりだ——————————!!















「おぉ、工藤君。来てくれたか!!いつもいつもすまないねぇ。」
「いえ、僕も好きで来てますから。」

高木の付き添いのもと、現場へと現れた新一に目暮はいつも代わり映えのしない言葉をかけた。
それに新一もいつもと同じ返事を返す。
これが2りの挨拶のようなもので、その後はすぐに本題へと移り変わった。

「凶器が見つからないことと、被害者の刺された角度、血痕の飛び散り方、倒れ方などから、殺人事件としてみているのだが…どう思う?」
「僕もその考え方に異論はありません。
 被害者達の身元や身辺情報などは?」
「それが…」
「所持品などを隈なく探したんだが、身元のわかるものは何一つなかったんだ。」

現場をゆっくりと歩きながら新一と目暮は言葉を交わしていく。
半歩遅れながら後ろに付けていた高木が新一の問いに気まずそうに言い淀むのを目暮が代わって言葉を口にした。

「被害者達の所持品は拳銃やナイフ、予備の銃弾などといった武器類ばかりで、身元を証明するID類は何一つ所持していませんでした。
 そこから推測するに、IDは犯人に持っていかれたか、又は最初から持っていなかったという風に考えられます。」
「そう考えるのが自然ですね。
 目撃情報など、何かありました?」
「ここら辺一帯は廃墟されたビルが建ち並んでいるからね。
 思うように情報が入らないんだよ。」

警察手帳に書かれている情報を読み上げ、まとめた事柄を高木は事務的に新一に報告する。
いつものように顎に右手をそえ、考え始めた新一は知らされてくる情報を的確に処理していく。
それでも情報が少なく、新たな情報を求めて口をついて出る言葉に、高木は苦笑でもって否定の言葉を返してきた。

「そうなると、現時点での事件解決は難しいですね。情報がとても少なすぎる。」
「やはり、工藤君でも無理か。
 だが、捜査を続けていけば何か手がかりが見つかるやもしれん。
 今日はこの事件が殺人だと確証が持てただけで良しとするか。」
「いえ、あと3つだけ推測する事はできます。」
「!?それは一体!?」
「被害者の身元関係と犯人の規模とここにない凶器の理由の3つです。」

顎に添えていた右手を外し、人差し指と中指、薬指の3本を立てて新一は不敵な笑みを浮べて見せた。
目暮と高木が食らい付いてきたところで右手を降ろし、3つの確立された事柄を提起する。

「まず、被害者の身元ですが、彼らの所持品から考えるに、 どこかの企業、組織、又は組といった団体に所属していたと考えられます。
 そして犯人の規模ですが、僕は1人ないし2人程度の小規模なものかと。
 最後に凶器ですが、現場に無い所をみると、この場に捨て去ると犯人の素性のばれるものか、
 あるいは、同じ武器で犯行を繰り返すため、か。
 とまぁ、僕の推理は以上です。
 全て憶測の域を出ないことばかりですが。」

新一は目暮と高木に口を挟む隙を与えず、一気に推理した事を話した。
最後を苦笑で締めくくり、意図的に目暮と高木に質問させ易い雰囲気を作り出す。
それに促されるようにして目暮が疑問を口にした。

「被害者の身元に着いては武器の所持から納得がいく。
 だが、何故犯人の規模が1人ないし2人なのだね?
 もし工藤君の言うとおり被害者3人が企業や組織に属していたとしたら、その団体と敵対関係にある団体などとの抗争とも考えられるじゃないか。」
「団体対団体の場合、被害者が3人で済むとは思えません。
 そう考えると犯人は最初から3人だけを狙っていたと考えられます。
 たとえ抗争だったとしても、団体は犯人の背後にいるだけで、実際この3人を殺害したのはほんの数人、3人にも満たない人数です。」
「では、凶器の紛失は?」

目暮の質問に新一は自分の立てた推理を話していく。
確かに、大人数相手の抗争が起きたとしたら、団体の面子などから3人で相手をすることはあまりないだろう。
ならばもっと被害は拡大していいはずだ。
それなのに被害者は3人に留まっているのは新一の言うとおり、犯人が少人数だからなのだろう。
そう結論づけ、頷く目暮に変わり、今度は高木が口を開いた。

「前者の推理はわかります。けど後者の推理はどうしてです?」
「3人の刺し傷の形状は異なっていて、そのうち致命傷を与えた凶器だけが紛失しています。
 他のナイフは捨て去っているのにも関わらず、1つだけ持ち去ったのは何故か。
 そこまで考えて導き出されるのは前者の推理です。
 けれど、僕の第六感は後者の推理も弾き出した。
 勘と言ってもいい。ただ、それだけのことです。」
「確かに、これまでも同じ凶器での連続殺人は起こっている。
 今回は違うと否定するのはあまりにも軽率だな。」
「今回のこの事件には情報が少なすぎます。
 僕が推理できるのはここまでですので、今日は失礼させて頂きます。」
「おぉ、すまなかったね、工藤君。
 また情報が集まったら知らせるよ。」

話が一段落した所で新一はこれ以上現場にいる必要はないと判断して話を切り出した。
それに目暮は礼を述べ、高木は来た時同様新一を来るまで送っていく。
これも、いつもと同じ日常化した光景だ。
車に乗り込むとき、一瞬新一の表情が変わったのに、一体誰が気付けただろう。

「それにしても凄いなぁ、工藤君は。」
「何がです?」
「あれだけ少ない情報で3つも4つも推理しちゃうことさ。」
「けどあれは全て証拠も確証も無い憶測の域を出ない話です。」
「それでも推理できるってところが凄いじゃないか。」

些か上機嫌な様子で高木は後部座席に座る新一にルームミラー越しに視線を寄越しながら話し掛けた。
それに苦笑を交えながら新一は会話を成立させていった。

工藤邸まであと数百メートルというところで新一は高木に話を持ち出した。

「好きな相手がすぐ傍にいないとき、高木刑事ならどうします?」
「好きな相手…かい?」
「高木刑事の場合、例えば佐藤刑事とか。」
「く、工藤君!?」
「例えばですって。」

高木の思い人の名前を挙げただけで予想以上に慌てふためく高木を笑って宥め返答を促した。

「僕の場合…この地球上のどこかに生きていてくれたらそれでいいかな。
 刑事なんて特殊な職業に就いているからね。
 人は事故とかで突然死んでしまったりするけど、刑事は事件に巻き込まれて命を落とす事もある。
 普通の人より突然いなくなってしまう確率が高いから。
 だから、傍にいなくても、どこかで生きていてくれるならそれでいい。」
「そう言い切れる高木刑事が羨ましいです。」
「工藤君は違うのかい?」
「俺はダメです。
 傍にいないと、自分だけが相手を好きなようで…
 どうしようもない程、ただがむしゃらに求めたくなる。」

照れた笑みを浮べながら高木は新一の質問に真剣に答えた。
その返答は人の良い高木らしい返答で。
思わず自嘲気味に浮かぶ笑みでもって自分の感情を抑え込み、ちょうどいいタイミングで自宅に着いた所を少々誤魔化しながら車から降りて家へと入った。

「あいつもきっと、同じ気持ちなんだろうな…

 だから、こんな————————————。」

新一の自白めいた言葉は突然降り出した豪雨により掻き消された。








最初の犯行が行われてから一週間が経過した。
その間に同じ手口の事件が5件。被害者数は優に20を超えている。
どれも手口が同じ事から、新一が最初に危惧したとおり連続殺人事件となった。
新一も、事件が起こる毎に警察に要請されていたのだが、
如何せん情報が事件の大胆さに反し、全くといって良いほど集まる事はなく、犯人の断定が難しかった。
流石に情報が揃わないのに新一を引っ張り出すのを忍びなく思ったのか、事件の数が2桁を越す頃にはあまり要請されなくなっていた。

事件が始まって約1ヶ月。
被害者の数は3桁を越え、それにも関わらず、情報はめっきり集まっていない。
否、警察側が掴んでいないだけで、新一は様々な情報を掴んでいた。
例えば被害者の正確な身元。
そしてそこから導き出される犯人。
被害者達は一様にある組織の残党だった。
己に最も関係のある因縁深い組織。
敵だったが、同じ目的を持っていると知り、『あいつ』と共闘して壊滅させた、あの組織。
そう、黒の組織だ。
同じ目的をもち、共に闘った『あいつ』とは組織を壊滅させて以来、会っていない。
最初からそういう約束だったからだ。
元々自分達は探偵と怪盗という相容れぬ間柄なのだから、当たり前なことだが。

新一はある廃墟へと入って行った。
其処には人影が5つ。
だが、1人を除く4人は床に伏している。
月明かりが窓から差し込んでいるが、此方からはただ1人立っている人の顔は窺えない。
けれど、人の形はわかった。
1人立っている人物は、左手にバスケットボール大の丸いものを鷲掴んでいる。
人の頭だった。
否、人の頭だったものだ。
掴んでいる頭は首から先がなく、胴体は床に転がっている。
目をよくよく凝らしてみれば、他の人影も、最早人とは言えない状態になっていた。

切り離された四肢。
潰された贓物。
無残にも転がされた肉の塊。
そして、何より…引き裂かれた心。


「まさか、こんな形で再会するなんてな。思ってもみなかった。」
「嘘だろ。お前は最初からこうなる事を知っていた。
 だから此処に来たんだろう?」

クツクツと、さも面白いかのように左手に持った生首を放り投げて相手は笑う。
そして、新一へと一歩一歩近付いた。

「最初は確信を持てなかった。だってそうだろ?
 お前は今まで、1度たりとも殺人なんて望んでいなかった。」

静かな空間に相手のたてる靴音だけが響き渡る。
近付く相手に真っ向から視線を向け、新一は言葉を紡いでいる。
歩み寄る相手は、新一と一歩半のキョリを開け、目の前で不敵に笑って右手を伸ばした。

「違うか?
 ———————————————名探偵。」

伸ばされた手は『新一』の頭へと置かれ、優しく髪を掻き乱した。

「あぁ、そうだ。
 俺が望むのは、お前だけだ。
 怪盗キッド。」

ストレートだった髪の毛はふわふわの猫っ毛に代わり、『新一』だった人物は快斗へと変わる。
目の前で不敵に笑う男は快斗と同じ顔立ちをしていて、窓から差し込まれた月明かりが新一の顔を顕にさせた。

「俺はお前だけいればいいんだよ。
 
 俺から逃げるなんて、許さない。」

返り血を浴びながらもとても妖艶に笑み、新一は快斗に口付けた。

これが、真実をただひたすらに追い求めた男なのか。









あんなに遠かったあなたとのキョリは、一歩半まで歪められた。

↑ PAGE TOP

About link

[Name] HeLlo,WoRld!
[Master] 織山真咲
[Address]
http://xxxcage.tudura.com/

HeLlo,WoRld!