「お前ら席着けー。
授業始めるぞー。」
ガラガラと音を立てて教室に入ってきたのは社会科教諭の亀梨和也。
仁の恋人で同棲相手だ。
本人達がそのことをひた隠しにしているので、取り敢えずは二人の近しい人たち以外はその事実を知らない。
ただ、傍目から見て、意味は違えど仁が和也に好意を持っているというのは周知の事実だったりもする。
ソレほどまでに仁からは和也好き好き光線が出ているのだ。
普段、授業なんてそっちのけで寝ていたり、教室にすらいることのない仁が、教科書などは開かないが授業参加しているのが良い例で。
今日も今日とて、仁はHRの間中爆睡していたにも関わらず、ニコニコと上機嫌でたった今教室に入ってきた和也を凝視していた。
「お前もホントに亀好きだよな~。」
「おう、当たり前だし!!」
隣の席の坊主頭――田中聖の呆れたような声に上機嫌で返事をするときも視線は固定されたまま。
分かってはいても聞いてしまう聖は苦笑を一つ零して和也に視線を向けた。
カリカリと黒板に少し右上がりで文字を書いていく和也も、どことなく機嫌が良さそうだ。
その事に他の生徒達も気付いているのか、今日のヒソヒソ話は軽く交わされていた。
亀梨和也という教師を一言で言い表すとしたら『気まぐれ』だ。
女の子のようにコロコロと変わる機嫌は、悪い時は本当に教室内が静まり返るほどの不機嫌オーラを醸し出され、尚且つ無差別に鋭い質問を当てていく。
その質問に答えられなければ授業が終わるまでイスの上に正座をさせられるというオマケ付き。
機嫌の良いときは、日にちと同じ出席番号を持つ生徒を当て、答えられなければ隣に質問が移行し、座席でビンゴが出来るほどに不正解が続くと横一列に並んだ生徒達を教壇の前に立たせて『かえるの歌』を輪唱させる。
はっきり言って、どっちもやりたくは無いのだが、まだ機嫌が良いほうがクラス内の空気が軽いので良いに越したことはない。
それに、機嫌の悪い時の和也の表情はソレはもう、恐ろしいのだ。
普段はソレはもう可愛らしく綺麗なのだが、一度不機嫌になると中々機嫌が直らない上目つきが鋭くなり、無表情で淡々と喋るので目を合わせたら最後、彼の目力に卒倒する生徒が後を立たない程。
そんなわけで、機嫌が良いようなので気軽に友達との内緒話も出来ているクラス内は今日は穏やかだ。
因みに。
和也が不機嫌状態の時、仁も不機嫌だったり、捨てられた子犬のような雰囲気を出しているのだが。
隣の席の聖以外、周りの生徒達は和也のことに気を取られ、仁のそんな様子には全く気付いていなかったりする。
「ここテストに出やすいからでっかく書いとけよー。」
「せんせー、今日も面白い話してよー。」
「あー...まぁ、今日の分の授業は終わったからいっか。
じゃぁ~、お前ら世界三大美女って聞いたことあるよな?」
笑顔で黒板をバシバシ叩く和也に、他の生徒の声が飛ぶ。
いつも――機嫌の良いときのみだが、授業時間が数分余ると色々な話をする和也に、今日も催促の言葉が投げられた。
それにも機嫌よく何を話そうか考えて、思いっきり挑発的な笑みを生徒達に向ける。
その表情はとても楽しそうだ。
「クレオパトラ、楊貴妃、そして、小野小町。
だけどコレは、日本だけの定説なんだ。
世界ではクレオパトラ、楊貴妃、ヘレネの三人が一般的に知られている。
この3人は『傾国の美女』に相応しい事を仕出かしていて史実にも残っているから興味があるなら調べてみろよ。」
和也の口からすらすら出てくる話に皆興味津々で、茶々入れしながらも皆聞いている。
仁はと言うと、
「(世界三大美女なんかより、ぜってー和也のほうが美人だし!!!)」
という、ノロケとも取れることを胸に秘めつつ、楽しげに話す和也に魅入っていた。
「対して小野小町はどうも日本が勝手に押し込んだだけらしい。
まぁ、クレオパトラも楊貴妃も小野小町も本当は美人じゃなかった。っていう話も出ているようだが。
昔と今じゃぁ美意識の違いがあるだろうからなんとも言えないんだけど......、っと。
それじゃ今日はコレで終わるぞ。」
「きりーつ、礼、ありがとうございましたー。」
丁度良い感じに時間が潰れたのか、授業終了の鐘がスピーカーを通じて鳴り渡った。
ソレを聞き届けて和也は話を終わらせ、学級委員長に号令の合図を送る。
変哲のない挨拶が終わり、礼をしていた上体を起すと、一瞬だけ仁と和也の視線が交わった。
普段、仁がどんなに熱烈な視線を向けても授業中に和也と視線が合うことはない。
なのに、今日に限っては和也が故意に視線を合わせてきたのだ。
舞い上がらないほうが可笑しい。
嬉しさに喜ぶ仁の姿は、和也には大型犬として目に映っていた。
□-◇あとがき◇-□
社会科教諭として登場した亀梨サン。
彼の専攻はは一体、世界史なのか日本史なのか...
あ、因みに、「世界三大美女」の話は実際そう言われているらしいです。
調べたのでソレに間違いがない限りは大丈夫...なハズ。