■もしも「夢職人×貘」だったら 2007/04/15
あなたが見たい夢、どんなものでも作ります。
夢職人 赤西仁
でかでかと、大きな看板に大きな字で書かれたそれは、不思議な事に道行く人の目には映っていない様で。
明らかに非常識な事が書かれているのに関わらず、気にする人は誰もいなかった。
綺麗で真新しい建物が建て並ぶそこに、レトロチックな洋風な洒落た、けれども周りの建物からは浮いている店が一軒。
忙しなく街を歩く人達は、大きな看板同様、気付いてもいないよう。
それでも店はお客を待っていた。
カラン、カラン...
ドアの上部に着いている小さな鐘が鳴り響いた。
店内は、こざっぱりとしていて、表で店を眺めた時よりも広い印象を受ける。
店の奥に置かれた大きな古時計の時を刻む秒針の音が鼓膜を震わせた。
所在無さ気にキョロキョロと店内を見渡す男。
誰にも気に留められる事の無かった看板と店に気付いたこの男には、見たい夢があった。
実は、そういう願望を持った者ではないと、この店に気付かない仕組みになっていたりする。
何はともあれ、この男は夢を作ってもらえる権利を得たのだ。
所在無さ気に立つ男に、突然声がかけられた。
「いらっしゃい、お客さん。
どんな夢を御所望で?」
「あの...、ここは、どんな夢でも見せてくれるって...」
「はい。
どんな夢でも作ります。」
「なら...、彼女の夢を、彼女が出てくる夢を、作って下さい...!!」
ぴらりと、見せられた写真には、活発そうな綺麗な女性が映っている。
きっとこの女性は男の思い人、片思いの相手なのだろう。
頼み込む男は必死にこの店の店主――赤西仁に頭を下げていた。
「良いでしょう、お作りします。
そのために髪の毛一本頂きますが良いですか?」
「はい!!」
「それと...夢を作るのは私ですが、それを良夢にするのも悪夢にするのもあなた次第。
それでは、良い夢を。」
カラン、カラン...
鳴る鐘を聞き届け、仁は張り付かせていた笑みを剥いだ。
無表情になった仁には、この男の夢の行き先がどこになるのか悟り、溜息を吐く。
「この夢も、アイツに喰われるんだろうなぁ。」
思い言葉とは逆に、声はどこか笑みを含んでいて。
無表情ながらに、楽しそうな雰囲気が醸し出ていた。
男は一人、公園に立っていた。
数百メートル先にある小さなベンチに、男の想い人が座っている。
活発そうな印象を受ける彼女は、静かにベンチに座り、読書を楽しんでいた。
彼女の隣にぽつんと、スペースが一人分空いている。
――これは夢だ。
男は頭のどこかで解っていた。
――これは、あの店で作ってくれと頼んだ夢だ。
現実じゃない夢ならば。
普段出来ないことだって出来る。
そう考えていた男だったが、実際、夢でも彼女を前に足がすくんで動けなかった。
どうにも行動に移せない男の横を、他の男が通り過ぎる。
目で追っていくとあろうことか、その男は彼女の隣に腰を落ち着かせてしまった。
ふと、本から顔を上げた彼女は、みるみるうちに、表情を笑みに変えていく。
離れた距離だというのに、彼女と他の男との楽しそうな会話が聞こえてくる。
徐々に近付く二人の距離。
――やめろ。それ以上は、ヤメテクレ!!
二人が重なる瞬間、辺りは一面暗闇に覆われた。
ぽつん、とさっきまで彼女たちが座っていたベンチが残されている。
赤い、二人掛けのベンチ。
そこに、一人の男が現れた。
「だから言っただろ?
良夢にするのも、悪夢にするのも、お前次第だと。」
「.........」
「この夢は、心の底でお前が思っていることそのままが現れてるンだ。
これが夢で良かったな。
だが、コレが夢だという保証は何処にもない。
現実だって、こうかも知れないからな。」
「.........」
「さて。
そろそろ現実へ戻れ。
ニンゲンのお前に、悪夢は毒だからな。」
パチン、と仁が指を鳴らすと、闇の中に扉が一つ浮かび上がった。
古めかしいレトロチックな扉が、音を立てて開いていく。
扉の向こうから差し込む光が男を照らし出し、一瞬男が目を瞑った。
次の瞬間には、扉も男も消えていて、赤いベンチと仁だけが取り残されていた。
「あーあ。
また悪夢になっちゃった。」
「ニンゲンの夢なんか作るから悪夢になんだよ。
ま、そのおかげで俺は腹一杯になるから良いけどな。」
呟いた仁の言葉に返事が返って来た。
ふと、隣を見れば、ベンチの背もたれの所に座る人影が一つ。
仁は気にした風も無く、会話を続けた。
「お前は悪夢を選り好みしすぎなんだよ。
なんで俺の作る夢ばっか喰うかな。」
「仁の作る夢は良夢だろうが悪夢だろうが美味いンだからしょうがないじゃん。」
「貘の癖に良夢喰うなよ。
腹壊すぞ。」
「仁の作った夢が良夢になることなんて殆ど無いじゃん。
だから心配しなくても大丈夫。」
「お前ね...
はぁ...もう、良いや。
とっとと喰っちゃって、この悪夢。」
「ん。
いただきます。」
茶色い髪の毛から、小さなネズミ科の動物に着いているような耳が生えている、仁から貘と呼ばれた少年――亀梨和也は、食前の挨拶を景気良く告げて小さな口を目一杯に開けた。
あーん。と、音がしそうなほど開けられた口から覗く白い歯は、小さな犬歯が鋭く尖っている。
かぷり、と悪夢に喰らい付く和也は、本当に美味しそうに食べていて。
その様子を見ていた仁から、苦笑が漏れた。
数分して悪夢を喰べ尽くした和也は満足そうにお腹を摩っている。
「いっぱい喰べたな。」
「うん。
お腹いっぱい。」
赤いベンチに座っている仁の膝に頭を乗せて、ベンチに丸く寝転がる和也。
所謂ひざ枕といった体制で、仁は優しく和也の髪の毛を撫でた。
頭部に付いている獣耳が気持ち良さ気に伏せられていて、和也は今にも寝てしまいそうだ。
「和也、俺のとこに来いよ。」
「んぅ~...?」
「野良やってる貘なんて、お前くらいだぞ。
解ってんの?」
「んむぅ~...」
「...はぁ。
おやすみ、和也。」
とろんとした瞳で見つめられ、仁は和也に言葉をかけたが全て和也の耳を左から右へ通り抜けてしまったようで。
何一つ明確な答えを返されないまま、和也は眠りの淵へと旅立ってしまった。
ため息を一つ吐いた仁は、それでも優しい表情で和也の髪の毛を梳いている。
それから数日後。
今日も今日とてお店は非常識な謳い文句でお客を待っていた。
店内に置かれた古時計が時を刻む。
その音にあわせて、うたた寝をしている動物の耳がぴくぴくと反応を示していた。
ネズミよりも大きく、猫よりは小柄な獣が、日当たりの良い場所で眠りこけている。
「和也、客が来たようだ。」
「ん...」
カラン、カラン...
和也、と呼ばれたその獣は、鐘の音を聞き、気だるげに身体を起して仁の腕の中に飛び込んでいく。
また悪夢が食べれる。と、期待に満ちた獣の目は、爛々と輝いていた。
□-◇あとがき◇-□
『うる星やつら』の映画、『ビューティフル・ドリーマー』を見てから、ちょっと書きたくなったこの話。
けれども、ポルノの曲の『ドリーマー』も一枚噛んでたり(苦笑)
貘って本当は色々な動物の一部が繋がったような感じの中国の想像上の生き物らしいのですが、なんとなく、私の可愛らしいイメージでこうなっちゃいました。
亀梨サンにコス(っぽいこと)してもらうのなら可愛くなくちゃダメでしょ?ってな感じで。