■もしも「小学生×保育園児」だったら 2007/03/22
ガタゴト...
黒いランドセルが、中身を上下に揺らす音を響かせている。
揺れるランドセルにつられ、左サイドに着いているフックから下げられた給食袋があちこちに跳びはねていた。
「仁!!
サッカーしようぜ!!」
「ごめん、俺パス!!
また明日の昼休みに誘って!!」
「おう、じゃーな!!」
「じゃーの!!」
グラウンドで一つのボールを追い掛けていた男の子が、走り去る仁に声をかける。
それは、遊び盛りの子供たちにとっては、魅力的な言葉だったが、仁は笑顔でその誘いを断った。
仁には、一つの使命がある。
友達の誘いを蹴っても、何も苦にならないくらい。
自分にとっても大事な、使命が。
仁は全速力で、背の低い壁伝いに走る。
その壁が、切れている所――門の入り口を抜けて、建物の玄関へと向かった。
仁が入っていった建物とは、保育園。
そう。
8つ離れた弟を迎えに行くのが、今仁に課せられた使命なのだ。
「こんにちわー!!
赤西です!!!」
「あら、仁君。
今日も走ってきたの?
いつも和也君のお迎え、ご苦労様。」
「あ、マユミ先生!!!
和也いる?」
「ほら、あそこにいるわよ。」
『ゆりぐみ』と書かれたプレートが掲げられている教室へと、手馴れた様子で入っていく仁は、いつものように挨拶をした。
すると、仁に気付いたこのクラスの担任――マユミ先生が笑顔で子供を腕や背中にぶら下げながら仁に話しかける。
見たところ、何か子供達にせがまれている最中だったのだろう。
先生にぶら下がる子供達は、当初の目的を忘れて楽しそうだ。
ざっと教室内を見回しながら、目的の人物を探す。
和也は、部屋の隅っこで友達と積み木で遊んでいた。
「和也ーー!!!」
「っ!!
じーんーーーー!!」
仁に名前を呼ばれた瞬間、ビクリと身体を震わせ、すぐさま振り向く和也。
その表情はとても嬉しそうで。
手に持った三角の黄色いおもちゃを手放して、トテトテと仁に走り寄る。
それでも3歳児。
なかなかのろいスピードにも、仁はその場を動かずに少しだけ屈んで和也に手を伸ばした。
満面の笑みで仁の腕の中にダイブする和也をしっかりと受け止め、ぎゅーっと強く抱きしめる。
これが毎度、仁が迎えに訪れると必ずされること。
まだ幼さの抜けない可愛い顔立ちの仁と、これまた子供らしい可愛い顔の和也のそんな抱擁の場面を見ようと、他の保育士の先生なども『ゆりぐみ』に足を運んでいることは仁と和也の与り知らぬところ。
微笑ましく見守り、各々目の保養を記憶に刻み込むと持ち場へと帰っていく。
この保育園は中々面白い先生方の集まりである。
それはさておき。
一頻りぎゅーっと抱きしめた後、仁は和也を下ろし、今まで遊んでいたおもちゃの片づけを促した。
やはりお兄ちゃんというところだろう。
優しく促して、それとなく和也の片づけを手助けしていた。
そして和也の身支度を整えて、手を繋いで保育園を後にする。
帰る道すがら、今日のことを仁に報告するのが和也の日課。
取留めも無く話題がどっかに飛んでいく和也の話を仁はいつも楽しそうに聞いていた。
「んとね、きょうね、たっちゃんとぷぃんたべちゃの。
ぷぃん、おいしぃねぇ~。」
「そうだね。
和也はプリン好き?」
「しゅき~!!!」
和也はまだ幼く、舌足らずなところもあって。
それでも、仁にいっぱい楽しかった話を聞かせようと頑張って言葉を紡ぐ。
それを仁も解っているのか、和也の言うことをきちんと汲み取って会話を繋げた。
「んじゃ、今日は聖クンのところのプリン買って帰ろうね。」
「わぁ~い!!
ぷぃん~~!!!こーきくんのとこのぷぃん~~!!!
かじゅ、ぷぃんもこーきくんもだいしゅき!!!
けどね、じぃんの方が、もっともーっとだいしゅきなの!!!」
「俺も和也大好きだよ。」
「うきゃぁ~~~!!!」
ふふふ、と楽しそうに繋いでいない左手を口に当てて、とても嬉しそうな表情で照れる和也は本当に可愛くて。
仁は子供心にずっと守っていこうと決意を新たにした。
「和也、こっち!!」
「仁ー!!」
「お前、ホントに子供の頃からダイブするクセ直らないのな。」
「そういう風に刷り込んだのは、仁でしょ?」
「ダイブすんのは俺だけにしとけよ。」
13年後。
高校生になった和也は、幼い頃の可愛さに艶やかさを加えて成長していた。
対する仁も、色気のあるカッコイイ男性へと成長を遂げ、それでも、昔からかわらずの弟溺愛っぷりを発揮している。
その溺愛が、家族愛からなのか、恋情からからなのか。
知っているのは、仁と和也の二人だけ。
「愛してるよ、和也。」
「俺も...アイシテル。」
□-◇あとがき◇-□
園服に黄色い通学帽に同じく黄色のかばんを斜めがけして赤西サンと手を繋いで歩く姿って、可愛らしいと思いませんか?
この話のモデルは『赤ちゃんと僕』ですね。
知っていらっしゃる方も多いと思われるこの作品。
私は大好きですvv