■もしも「時計ウサギ×アリス」だったら  2007/03/27
扉が開くと、そこは異世界だった。なんて非日常的なことが、日常的になりつつある今日この頃。
開け放たれた扉の向こうに、いつもと変わらぬ笑みを浮かべ、大きな銀色の懐中時計をぶら下げた自称時計ウサギは、うんざりした顔をしているアリスを押し付けられた少年に、フリルの白いエプロンドレスが付いた淡い空色のワンピースタイプの服を掲げてこう宣った。

「竜ちゃん!!
 コレ着て一緒に不思議の国で暮らさない?」
「明後日来やがれ、このすっとこどっこい。」
「すっとこ...?
 って何~?」

台詞が若干間違えているのも気付かずに、アリスを押し付けられた少年――小田切竜は、間の抜けた事を言っている自称時計ウサギ――矢吹隼人を扉の向こう側に押し込み、鍵をかけた。
どういう理屈なのかは知らないが、一度扉を閉めるとその日は異世界に繋がらなくなるようで。
毎日のように押しかける隼人を毎日のように押し返す竜は、ここ数日でその事を学んだ。
というか、会って3回目の時に隼人がぼやいていたのを聞いただけなのだが。
そんなこんなで、今日も1日1回の邂逅をたったの1分弱で強制的に終了させた竜は、部屋で一人、溜息を吐いた。
扉を背に、ずるずると座り込むと、顔を引き攣らせるには充分な物体が視界の端に捕らえられる。
それは、先程隼人が竜に掲げて見せた物で。
掴むのも嫌なのか、竜はそれを足で部屋の隅の方へと追いやった。
また一つ溜息を吐いて部屋を出る。

キィー...パタン。

扉は、音を立てて閉じられた。





次の日。
いつも隼人が扉を開ける時間。
ふと気付けば、その時間はとっくに過ぎていた。
大体いつも、15分くらいのズレはあっても1時間もズレることはなく開け放たれていたその扉は、今日は2時間過ぎても開く様子がない。
まぁ、こんな日もあるか。と楽観視した竜は全く気にせず、その日は過ぎて行った。





また次の日。
今日も開かない扉。
この日は、竜は自分が隼人に言った台詞を思い出していた。

「明後日来やがれ、このすっとこどっこい。」

一昨日から見れば、今日が明後日に当たる日。
今日は来るだろ。と思っていれば、予想に反して開かない扉。
苛々し始めている自分を自覚して、舌打ちを一つ。
馬鹿らしい。とばかりにふて寝することを決めた竜は、それでも開かない扉を気にしてなかなか寝付けないでいた。





次の日。
また次の日。
そのまた次の日。
あの日から、既に1週間は経過した今日。
気付かないフリをし続けていた竜。
隼人が現れなくなって、初めて気付いた自分の隼人への気持ちを認めたくなかった。
もう二度と開かれる事はない。と錯覚しそうなくらい、“向こう側”から扉は開けられていない。
こちらから開けても、その扉が異世界へ繋がることはなく。
どうしようもない気持ちで竜はいっぱいだった。
俯いた竜の視界に、あの日隼人が落として行った淡い空色の服が掠める。
のろのろと、服を掴んで、再び扉の前へ。

「...はゃと...、会いたぃ...
 ...これ、着れば...お前に会える...?」

隼人が言うように、竜がアリスになれば、隼人に会えるのだろうか。
隼人を追い掛ける為に、扉を開けることが出来るのだろうか。
不安に潤みかける瞳を揺らしながら、のろのろと着替え、竜はドアノブに手をかけた。
深呼吸を大きく2回して、いざ!!

ガンッ...!!

扉は大きく開け放たれ、盛大な衝突音を響かせた。
竜から見て、内側に引くタイプの扉なので、竜が力加減を誤って衝突することはない。
なら、なぜ?
纏まらない思考に苛立ちながら、竜はズキズキと痛むおデコを押さえつつ前を見れば、そこには目を真ん丸に見開いたウサギがいた。

「竜ちゃ...、ごめっ!!
 ぇ、でもなんでその恰好...?
 ぇ、ぇ、ぇえ!?」

元から潤んでいた瞳に、更におデコの痛みによる生理的な水分が加わり、数滴ぽろぽろと涙が零れた。

「ぇ、そんな泣くほど痛かったの!?
 ごめっ!!ごめんね、竜ちゃん!!」
「ぅ゛~~~...
 隼人のバカ...全部お前のせいだ...
 俺のデコが痛いのも、涙が止まらないのも、こんな恰好してるのも...
 全部お前が来ないから......」
「竜ちゃん...俺が来るの、待ってたの?」
「っ、...そうだよ、悪いか、バカ隼人!!」
「ん~ん。
 全然悪くないよ。
 寧ろ嬉しいし。
 大好きだよ、竜。」

泣き顔を見られなくないのか、隼人の胸に顔を埋める竜は、きっと盛大な告白をしてしまった事に気付いて真っ赤になっているのだろう。
表情は見えないが、髪の合間から覗く耳が真っ赤に染まっていて、隼人は愛おしさを感じた。
ぎゅーっと優しく、けれども、力強く抱きしめれば、竜の腕がおずおずと隼人の背中に回される。
耳元で、隼人は愛を甘く囁いた。






「二日しか経っていないのに、竜ちゃんから熱烈なアピール受けるなんて思っても見なかったよ。」
「は?
 お前が来なくなって、既に1週間経過してるンだけど?
 それともあれか?
 異世界は時間の流れが違うのか?」
「1週間!?
 うっそだぁ~。
 異世界でも時間軸は同じだからそんなことあるわけないよ~。
 だって俺、竜ちゃんが『明後日来やがれ』って言ったからこの時計で時間測ってたもん。」
「...おい。
 その時計、狂ってるぞ...」
「うっそ!?
 じゃぁ、マジで俺竜ちゃんに1週間も会えなかったの!?
 そんなんやだぁ~!!」

支離滅裂な事を叫びながらも、ウサギはちゃっかり自分の巣穴へとアリスをお持ち帰りするのであった。
アリスが自分の世界へ帰れたのは、それから一体何日後のことだろう。
異世界で時を示すのは、時計ウサギの狂った懐中時計のみ。



時を忘れて、互いに溺れましょう?







□-◇あとがき◇-□

続編、書いてみちゃいました。
今回は竜ちゃんにコスプレしてもらっちゃって...
KANAMEさん、こんな感じで如何でしょう...?

時計ウサギの持っている時計って、確か狂ってるんですよね?
ディズニーのアリスやら原作のアリスがごちゃ混ぜになってて不確かなのですがι
ていうか、私兎サンを『時計ウサギ』と称してますが、実際は『白ウサギ』らしいです。
けど私は『白ウサギ』より『時計ウサギ』の方が好きなのでこっち表記とさせて頂きます。
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