■もしも「優等生×不良」だったら 2007/03/25
ざわざわと、騒音の響く教室。
朝の風景としては、在り来たりなその空間に、一人の少年が入室したことで、音が無くなった。
そして訪れる、声をちいさくして話す時に生じる騒音。
擬音どおり、ひそひそと聞こえるソレに、入室者――小田切竜は感嘆の念を抱いた。
多少ズレている事を考えていると自覚しながらも、止まないひそひそ話にだんだんイラついてくる。
ひとつ舌打ちをしてみせれば、またこの空間に静寂が訪れた。
「(かったりー...やっぱサボれば良かった...)」
家柄や容姿、腕っ節の強さなどの要因により、周りから畏怖される立場にある竜は、今日も退屈な日々が訪れることを思い、腕を枕に顔を伏せた。
既に寝る格好だ。
だが、それを注意する人は誰一人としていない。
理由は、竜は不良だから。
その一言に収まりはしないのだが、言ってしまえばそこに帰着する理由。
進学校の中では珍しい、蜂蜜色に髪を染め上げ、口は悪く、喧嘩っ早い竜。
今までに、父親が警視総監という肩書きを持っていなければ、鑑別所行きになっていたり、学校を退学になっているだろうことをやらかしてきている。
勉強の方は、普段授業など全くというほど聞いていないのに、学年のTOP5には毎回入っていて、羨望や妬みの身近な対象になっていた。
かといって、誰も竜が恐くて何も出来ず、内輪で何かを言い合うだけ。
行動に出るものなど、誰一人としていなかった。
そう、今日までは。
「あ、小田切君、やっと来たね。」
「............」
「昨日提出の化学のプリント、あと小田切君だけなんだ。
今日持ってきてる?」
竜が顔を伏せたことでまた徐々にざわめき始めた教室に響く、竜を呼ぶ声。
ふと、不機嫌そうに顔を上げれば、にこにこと笑みを絶やさずに笑いかけてくる学級委員長――名を矢吹隼人という。
竜の鋭い眼力を受けながらも、にこにこ笑んで、竜の席へと近付くその姿に、周りの生徒達が慌てだした。
俄かに騒がしくなる室内に、竜の機嫌も相乗効果を発揮して降下し続ける。
黒く、落ち着いた髪を揺らしながら、隼人は手にプリントを1枚持って竜の前に立った。
「このプリントなんだけど...」
差し出されたプリントに目を通せば、それは貰った時に紙飛行機にして飛ばしたのと同じプリントだった。
別に提出物を守って成績を良くしたい。などと竜は思わない。
だが、何故か隼人から差し出されたプリントを受け取ってしまった。
手に持ったものを付き返すのも面倒だったので、名前を書いてさらさらと問題の答えを記入していく。
淀み無く進むシャーペンの音が止まり、無言でプリントを隼人に返した。
記述で説明しろ。という種類の問題以外埋められたプリントを隼人は嬉しそうに受け取り、ふにゃりとした綺麗な笑顔を竜に向ける。
瞬間、息を呑む音があちらこちらから聞こえたが、隼人は気付いてないようだ。
「ありがとう、小田切君。
それと、ごめんね、睡眠の邪魔しちゃって。」
笑顔で自分の席へと戻る隼人に一瞥をくれ、また腕を枕に顔を伏せる。
すると、人の動く気配を感じた。
竜と会話をしていた時、遠巻きに隼人を気遣う素振りを見せていた頭の固いガリ勉集団だろう。
しきりに隼人に声を掛け、竜に近付くな。というようなことを話しているのが耳に届いた。
そんなに俺はお前らにしたら猛獣なのか。と思ったが、自分にしてみれば、頭の固いガリ勉集団は珍獣に思えるので、ああ、こんなもんか。と思うことにした。
つくづくズレた事を考えるものである。
そんな事を考えていると、本格的に睡魔が襲ってきた。
夢の中に引き込まれるかのように、竜は眠気に身を委ねることにしたのだった。
ふと、ざわめきに意識を浮上させてみれば、既に休み時間に入っていて。
時刻を確認すれば、3限と4限の間の休み時間だった。
ふわぁ。と、あくびを一つ零し、席を立ち上がる。
そんなに大きな音を立てたつもりはないのだが、耳聡いクラスメイト達から朝の時同様、視線を向けられながらの退室となった。
周りの人間に向けられる、奇異や畏怖、嫌悪や羨望の視線がウザったい。
どんなに思考を切り替えようとしても、向けられる視線によりイライラは募り、不機嫌の度合いが深くなる。
階段を上り、屋上へと続く扉を力任せに、八つ当たりするかのように蹴飛ばして開けた。
べこり、と凹んだ扉は大きく開いた反動で、盛大な音を立てて閉まる。
それを気にせず進めば、目の前を紫煙が流れた。
そして、その紫煙が上がる時独特の匂いも、竜の嗅覚を刺激する。
煙草が嫌いな竜は顔を盛大に歪め、紫煙の元へと視線を向けた。
入り口から丁度死角になる場所から上がる、煙草の煙。
誰が何処で吸っていようが構わないが、俺の特等席で吸うな。と文句を言ってやろうと不機嫌丸出しで相手の元へずかずかと歩を進める。
角を曲がり、喫煙者と向き合った時、竜は心底驚いた。
端から見れば、竜は無表情に見えたのだが、内心は動揺を隠せずにいる。
喫煙者はなんと、朝、ふにゃりとした綺麗な笑顔を見せていた、竜のクラスの学級委員長、矢吹隼人その人だったからだ。
「あ、小田切じゃん。
何?お前もサボりなの?」
「............」
「相変わらずお前反応無いのな。
んなトコで突っ立ってないで、こっちきてココ座れば?」
竜には、にこにこと笑っている印象しかない隼人は、竜の印象とは掛け離れて今はニヤニヤと意地の悪い笑みを見せていた。
背中をコンクリに凭れさせて、屋上の床にそのまま座り、右ひざを立ててその上に煙草を挟んだ手を置いて。
ココ。と、隼人の隣を指差す。
「はい、おすわりー。」
「.........っ、なっ!!!」
竜に手を伸ばす隼人に、あまりの動揺に竜は反応が遅れた。
ニィ、っと、綺麗に右の口の端だけを上げて挑戦的な笑みを見せつけ、隼人は竜の学ランの裾を引っ掴んでイヌに接するかのような口調と共に隣へと強制的に座らせる。
崩れた上体を、竜は何とか持ち前の運動神経で立て直した。
そして、未だ混乱する頭を強引に押し留め、抗議の声をやっと上げることが出来た竜は、やはり現状が把握しきれていない。
なぜ、学級委員長が屋上にいるのか。
なぜ、彼は煙草を吸っているのか。
なぜ、別人のような口調と表情をしているのか。
ぐるぐると忙しなく回転を続ける頭で導き出した答えは、案外簡単なものだった。
「お前......、猫被り、か?」
「ピンポーン。
さすが小田切、他の奴らと頭の回転が違うね~。」
混乱する竜を楽しそうに、眺め、ケタケタと無邪気な子供のように笑う隼人に、学級委員長をしている時の面影は全く無い。
人間、口調や表情を変えただけで、ここまで別人のように見えるのか。と考える竜は、やはり傍目には無表情に見えた。
「それにしても、小田切。
俺の素を見ても反応薄いのな。
隼人クン、チョーショック!!」
「...ある意味ショック受けてンのはこっちだよ。」
未だケタケタと笑う隼人に、竜はため息を吐いた。
ショック。と言う割りに、その表情は実に楽しそうだ。
「あ~...久々に学校で本笑いしたな。
小田切って面白ぇな!!
てか、感情乏しすぎるぞ、お前!」
「てめぇには関係ねぇだろ、猫被り。
つか、ソレ早くどうにかしねぇと灰落ちるぞ。」
「ん...?
あ、ホントだ。」
無邪気に笑い続けた隼人は、失礼なことをお構い無しに紡いでいる。
いくら竜が睨み付けても全然怯む様子を見せないのは、こんな性格をしているからなのか。と、どこか思考を飛ばしていると、隼人の持つ煙草に意識が向いた。
ソレはもう、かなり短くなっていて、2cmほど灰の部分が進んでいる。
隼人の周りに灰が落ちている形跡がないので、携帯灰皿を持っているのだろうと思い、竜は取り敢えず忠告しておいた。
案の定、隼人は携帯灰皿を持っていて、灰を落としてから火を揉み消し始める。
「あ~...マジかったるい...
俺もこのままココでサボっちゃお~。」
「.........お前さっき俺に『お前もサボりか』って聞いたよな?」
「ん...?
あぁ、そう聞いたけど、それが何だ?」
「元からココでサボる気じゃなかったのか?」
「ココはお前のサボり場だろ?
俺のサボり場は保健室って決まってんの。
だから煙草吸い終わったら行こうかと思ったんだけど、匂い消すの面倒だからここでサボればいいかなって...」
ごろん、と、竜の方を向いて寝転がった隼人は太陽の光を浴びてとても気持ち良さそうだ。
現に、竜への返答をしながらも、隼人の目蓋は落ちかけていて。
段々声が小さくなっていったかと思うと、目蓋は完全に降り切って、隼人から小さな寝息が聞こえ出した。
なんとも寝つきの良いことか。
暖かな陽射しに、心地よく頬を撫ぜる風に、竜の目蓋も次第に意思とは反して降りてきた。
夢の様な出来事に、目が覚めれば、またいつもの日常なのかな。とか思いつつ、隼人に習って横になり、一度隼人の寝顔を見てから目蓋を閉じる。
再び目蓋を開けたときのことを思いつつ、竜もまた、小さな寝息を立て始めた。
「なぁ、小田切。」
「...んだよ。」
「俺お前のこと、気に入ってたんだ。
だから付き合おうよ、俺ら。」
「......は?」
有り得ない展開が引き続き起こり、なんやかんやと、自分も隼人の事が気に入っているのだと自覚した竜は、流れのまま、隼人と言う猫被りな優等生を恋人に持つこととなった。
それからの日々が、隼人によってなんの変哲の無い日常から、馬鹿みたいに面白おかしい日常に塗り替えられるのだとは、このときの竜は気付いていない。
□-◇あとがき◇-□
普段見る設定とは逆の設定で小説を書こうと思って「優等生×不良」なんてものを執筆しちゃいました。
取り敢えず、学級委員長やってる隼人サンは某番組の修学旅行コントみたいな感じの良い子ちゃんぶりを発揮しているのだと思ってください。
あー...っと。
コレ、見ようによってはりゅはやですが、誰がなんといおうと、はやりゅです。
そう見えても仕方が無いのは織山がリバOKな人種だから。と思っておいてください。