■もしも「探偵×怪盗」だったら  2007/03/04
「RYU!!!
 今日こそお前は俺のもの!!!
 大人しく俺に捕まれーーーーー!!!!!」

真夜中に、大きな轟音を立て、開かれたビルの屋上。
そして、その轟音と同じくらいの騒音を、全身白で統一された服装をした男へと投げ付ける、一人の少年。
推定小学1年生くらいの、男の子。
彼から発せられた騒音は、熱烈な告白だった。





事の始まりは、8時間ほど前に遡る。

その日、小学校が早く終わった男の子――矢吹隼人は、保護されている家――上田家へと急ぎ足で帰宅した。
隼人は少々変わった小学生で、見た目年齢推定7歳の小学1年生だが、実年齢17歳の歴とした高校生だったりする。
どうして見た目と実年齢が相反するのかというと、この少年の好奇心に問題があった。
自称名探偵を名乗る彼は、取り敢えず、目先の謎に興味を惹かれ、何かと首を突っ込む習性を持っている。
そのため、色々な事件に巻き込まれるのだが、その時は少々軽率な首の突っ込み方で。
怪しい薬を飲まされ、身体が縮んでしまったのだ。
本当は毒薬として開発されていた薬。
その効果が、何をどうトチ狂ったのか、死を齎しはせず、身体を縮めるだけにおさまった。
不幸中の幸い。というところだろう。
本人も最初は驚きはしたが、結構楽しがっている節もあり、自称名探偵は、今日もまた、事件を探していた。

「上田ー!!
 ただ今ーーー!!」
「年上を呼び捨てにするな。っていつも言ってんだろ、隼人!!」

上田家の玄関のドアを開けて、中にいるであろう人物を呼んだ瞬間、右ストレートが飛んできた。
それを難なくかわしながら、隼人はにっこりと音の付きそうな笑みを浮かべて、背負っていたランドセルをソファに投げる。

「たっちゃん!!!
 今日の新聞ちょうだい!!!」

子供の無邪気な笑顔を振りまきながら、上田に両手を差し出す隼人。
そんな隼人に毒気を抜かれたのか、ため息を一つ吐き、上田は対面式になっているキッチンにいる人物を呼びつけた。

「中丸ー!!
 俺にコーヒー!!!あと、隼人に朝刊持ってきてー!!」
「はいはーい!!
 今行くからちょっと待ってて!!!」
「ヤダ。
 早くして!!!」
「ちょ、ちょっと待ってってば!!!
 たっちゃんがいきなりイチゴタルト食べたいって言うから作ってるんでしょ!?」
「ソレとコレとは話は別だろ。
 ほら、早く!!!」

言い合いをしながらも、キッチンでせかせか動いている中丸の手には、既にコーヒーの入ったマグカップが2つ持たれていて。
1つは隼人用にミルクと砂糖がたっぷり入り、コーヒーとは言えなくなった、カフェオレみたいな色の飲み物が注がれていた。

「はい、コーヒー。
 隼人も、ランドセル部屋に置いておいで。
 新聞は用意しておくから。」
「わかったー!!」

ソファに投げ捨てたランドセルを拾い、ドタドタと階段を上っていく隼人を見送り、中丸はリビングの中央にあるローテーブルにカップを2つ置き、隼人のマグカップが置かれている横に新聞を乗せた。
またドタドタと、階段を駆け下りる音が響き、隼人がリビングへと入ってくる。

「ほら、中丸!!!
 イチゴタルトも早く!!!」
「俺もイチゴタルト食べたいー!!
 中丸早くーーー!!」
「はいはい。
 直ぐ出来るからもうちょっと待って!!」
「「ヤーダーーー!!」」
「ハモんなくて良いから!!!
 もうちょっと待ってて!!!」

ぎゃーぎゃー言いながらも苦笑しつつ、手を動かす中丸。
隼人も上田も、半分冗談で急かしているのを知っているからだ。
ただ、残りの半分が本気なのは.........言うまでもない。

この家の主は、隼人が言うたっちゃん――上田竜也で、彼は世界的に有名な推理小説家だ。
そして、上田の担当の中丸雄一。
いつもいつも、そのお人好しな性格からか、突然言われる無理難題や上田の世話につき合わされ、今に至っては日に日に料理の腕が上がる一方で。
毎回締め切りを守らない上田をせっつく為、ほぼ住み込みのような生活を強いられているため、上田家に保護されている隼人も世話をする対象になっていたりする。
上田と隼人の2人に、既に家政夫の位置付けをされていることなど、当人は全く気付いていない。

何故、隼人が上田家に保護されているのかというと、毒薬を飲まされ、身体が縮んでしまったことが理由だ。
元々隼人は、上田とは知り合いで、毒薬を飲まされ、身体が縮んだ隼人を発見したのも上田だった。
そして上田は、その『毒薬を飲まされた。』という危険性を思い、隼人を保護し、同時に偽名を名乗らせている。
そう、「矢吹隼人」は偽名で、本名を「赤西仁」という。
元の身体に戻れなければ一生「矢吹隼人」で生活しなければいけないということを本人は分かっているのか、そうでないのか。
甚だ疑問なところなのだが、本人は至って物事を前向きに捉えているようで、今を楽しんでいたりする。
所謂、能天気な性格をしているのだ。

「今日もあんまり目ぼしい事件とかないな。」
「あ、そういえば隼人。
 昼のニュースで今夜怪盗RYUの犯行予告が出された。って言ってた。
 夕刊には載ってるンじゃない?」
「たっちゃん、ソレほんと!?
 中丸ー!!そのニュース録画した!?」
「おー、徹夜明けで寝始めたところをたっちゃんに叩き起こされたからな。
 DVD編集までばっちり。」

両手を広げて読むことの出来ない新聞を床に広げて見ていた隼人は、上田の一言で目を輝かせて顔を上げた。
すぐさま、イチゴタルトの盛り付けに精を出している中丸に話を振る。
すると、隼人の期待していた答えが返ってきた。
広げられた新聞を飛び越え、ローテーブルより3mほど離れたところにあるビデオに飛びつき、デッキを操作し始める。
カチャカチャと、数回のボタン操作で、取り敢えずはテレビから5歩くらい離れて正座して座り、ドキドキと鼓動を刻む心臓を押さえ込み、若干期待に震える手でDVDの再生ボタンを押した。

『さて、次のニュースです。
 本日、世間を騒がす怪盗、RYUから犯行予告が警視庁に届けられました―――――』

画面には原稿を読み上げる男女のアナウンサーが一人ずつ正面に座っている。
一言二言、事務的な言葉を発した後、アナウンサーが映っている画面の右上の方に小さく、違う映像が流れ出した。
そして、それが次第に大きくなっていき、画面いっぱいを、白が満たしていく。

「きゃ~~~~~~!!!!!!!!!
 RYUかわいぃーーーーーーーー!!!!!!」

『前回の犯行のとき、追い詰めるもあと一歩というところで逃げられてしまいましたからね。
 今度こそ、捕まえて欲しいものです。』
『けれど、怪盗と言っても義賊な面を持ち合わせているRYUは、国民からの人気も相当高いですからね。
 捕まって欲しくない。という声も多く聞きますよ。』
『ですが、犯罪者は犯罪者です!!
 なんとしてでも日本警察の威信にかけて、是非とも逮捕していただきたい!!』

前回の犯行時に撮った映像なのか、画面一面には、モノクルと白いシルクハットを被り不敵に笑う、白い怪盗の姿。
隼人の叫びに重なり、画面には映っていないが、アナウンサーとゲストの評論家などが話し合っていた。
そんな会話も聞こえていないのか、隼人は画面を埋め尽くすRYUに視線が釘付けだ。
白いシルクハットに右目にモノクル、白いマントに白いスーツを着込み、全身を白で多い尽くした怪盗は、カメラに向かって挑戦的な笑みを浮かべている。

「捕らえてみせろよ、この俺を。」

そう言わんばかりの雰囲気を醸し出すこの怪盗は、マントを翻して忽然と姿を消した。
RYUお得意のマジックだ。
彼はマジックを多彩に操り、警察を手玉にとる怪盗だ。
毎回、盗む宝石は、強奪された宝石や、騙されてとられてしまった宝石ばかりで、RYUの犯行後、その宝石たちは人知れず元の持ち主に戻されている。
そこを取って、義賊と称されるRYUは、いつしか国民から圧倒的な支持を得ていた。
確かに犯罪者の括りに入ってしまうRYUの行為。
けれど、RYUのお陰で、色々な犯罪が暴かれているのも事実。
そんなRYUに、隼人は恋をしていた。
自称名探偵を名乗る隼人にとって、怪盗という行為をしているRYUは、相反する存在なのだろうが、本人は至ってそんなことを気にしていない。
本能のままに動く。
それが「赤西仁」だった。

『RYUの犯行は明日の深夜1時、美術館に展示中の「月のナミダ」を盗み出す。と―――――』

まだまだアナウンサーは何かをしゃべっていたが、隼人にとっては、中年太りしたおっさんの話なんて右から左に通り抜けている。
RYUの犯行はおよそ8時間後。
それまでに美術館からの逃走経路を割り出して先回りをしなくてはならない。
よし!と、握り拳をして勢いよく立ち上がった隼人は、中丸の編集したDVDをきちんとケースにいれ、ローテーブルに運ばれてきた色艶の良いイチゴタルトを頬張りつつ、今夜のことを考えていたのだった。
そう、自称名探偵は、RYUの事となると、“自称”じゃなくなる名探偵振りを発揮する、怪盗RYUの熱烈なおっかけだった。





そして、冒頭に戻り、今に至るわけで。
隼人の割り出した逃走経路バッチリにハングライダーでビルに降り立ったRYUは、行き成り開かれたドアから屋上に飛び込んできた隼人に熱烈な告白を受けたのだ。

「おう、小僧。
 子供は既に寝てる時間だ。
 とっとと帰れ。」
「RYUが俺のものになってくれるならRYUと一緒に帰る!!!
 それに、俺は小僧じゃなくて、矢吹隼人だってば!!!」
「毎回毎回、バカ言ってンじゃねぇよ。
 誰がてめぇに捕まるか。」

ニヤリと笑いながら、満月を背にフェンスの上に立つRYU。
逆光とモノクルで顔は見えないが、整った顔をしているのは確かだ。
毎回、犯行後に必ず逃走経路に現れる隼人に、RYUは軽くあしらうようにして告白を流していく。

「俺の名前は矢吹隼人だってばー!!!
 どうしたらRYUは俺の名前呼んでくれるのー?」
「何で俺がてめぇを名前で呼ばなくちゃらなねぇンだ。」
「だって俺、RYUのこと愛しちゃってんだもん。
 だからRYUを俺のものにしたいし、俺の名前も呼んで欲しいの。」

直接的なラブコールを一身に受けるRYUは、それでも態度を変えはしない。
ポーカーフェイスで以て、表情は保たれているが、内心はドギマギしっぱなしだ。
ここまで気持ち良いくらいに愛情表現されれば、誰だって動揺するだろう。
だが、さすが世間を賑わす怪盗。
鍛え上げられた表情筋によって、内心の動揺は全く表に出てこなかった。
若干耳が赤くなってはいるのだが、逆光のせいで隼人からは見え辛い位置に居るため、まだバレてはいない。

「ねぇ、RYU。
 俺のものになって?」

見た目小学生の隼人からのラブコールは少々異様な気もしなくもないが、RYUは隼人が毒薬のせいで縮んでいるのを知っている。
何故バレているのかは全く以て知らないのだが、隼人はそんなこと気にしていなかった。
相当お気楽な性格をしているようだ。
何はともあれ、盛大な告白をした隼人は、後はRYUからの返事待ち。
一歩、一歩とRYUに近付いて、フェンスへ残り7歩程度の距離で下からRYUを見上げた。
一度瞳を閉じ、また開けてから、RYUは隼人のもとへと降り立つ。
スタスタと、隼人へと歩み寄り、隣をすり抜ける瞬間。
隼人に辛うじて聞こえるくらいの大きさでRYUが何事か呟いた。
隼人が目を見開き、振り返っても、RYUの姿はどこにもない。
暫し呆然としていた隼人だったが、ふにゃっとした嬉しそうな笑みを零した。


『俺に呼ばれたい名前が「矢吹隼人」で良いのかよ?
 日常の俺を探し出してみろ、赤西仁。』






「かぁーめぇーーーーーー!!!!
 好き好き、アイシテルーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
「大声で叫ぶなバカ仁!!!!」







□-◇あとがき◇-□

...な、長い...ι
以前KANAMEさんと話してた「探偵×怪盗」です。
何でしょうね...?
やっぱり甘い。
んでもって、かなり適当な設定です(苦笑)
友情出演で中上夫婦が登場しましたが。
口調が全然わかんなくて、無難に終わりましたね、彼らの絡みは。
まぁ、そんなこんなで。
最後、名前呼んでますが、ちっちゃいままです。
ただ、彼らが2人で会うときに本名で呼んでる。ってだけの話です。

いつも以上に変な話ですが...
書いてる時の真咲の変なテンションそのまんま表してますね、コレ。
そんな感じで。
終わります。
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