■もしも「時計の修理職人×喧嘩番長」だったら 2007/03/02
商店街の一角に、古い、とてもレトロな感じの店が1件。
古くから残るその店は、今では珍しい時計屋で、今では3代目の店主を添えて軒を連ねていた。
『Zeit』という名のその店は、今日もまた、お客様を待っている。
「隼人、コレ、修理頼む。」
カラン、カラン...と、入り口のドアの上部隅に付けられた鐘が、慎ましやかに鳴り響く。
それと同時に、顔に少々怪我を負った、学ランの高校生――小田切竜が店の中に入り込み、カウンターに座っている店主に、ガラスが砕け、文字盤と針が歪に曲がった時計を差し出した。
「またぁ~?
今度はどんな使い方したの?」
「...横から襲ってきた奴が鉄パイプ持ってて、右腕上げてガードしたらガツン、と。」
ひしゃげた文字盤と針は、明らかに物理的攻撃を受けたことを示していて。
いつものことなのだが、また今日も店主――矢吹隼人は、竜に問いただす。
そして、いつもと代わり映えのしない故障理由を口にされた。
「竜ちゃ~ん...
時計の使い方が間違ってる。って何度言わせたら気が済むの~?」
「今回のは不可抗力だ。
ガードの為に時計を使ったんじゃない。」
「それでもねぇ~...」
竜は、項垂れる隼人の頭に、カウンター越しに手を乗せて慰めるかのように規則正しく優しく叩いた。
今年21歳になろうとしている隼人に、年下の竜からのそんな行動は、普通なら嫌がることなのだろうが、隼人は大きなため息を一つ吐いて、微動だにしない。
怒る気にもなれない。と言った方が良いだろうか。
それほどまでに、隼人は気が沈んでいた。
実は、竜がこうして「壊れた。」と言って腕時計を持ってくるのは少なくはない。
大抵は今回のように喧嘩に巻き込まれて壊れることが多く、時たま竜によって攻撃するときに武器として使われるくらいで。
そもそも竜は、時計の根本的な使用方法が間違っているのだ。
普通、時計と言ったら、時間を確認するもので、間違っても喧嘩の道具じゃない。
武器にするのは以ての外だが、竜は、防御のためにも、時計を使う。
防御に至っては、本人の意図する所じゃないのかも知れないが、大体のパターンで犠牲になるのは時計だ。
毎回毎回、隼人に直させるくらいだから、とても愛着のある時計なのだろうが、それならばもっと大切にして欲しいと、隼人はいつも思っている。
そして、今回の故障は、前回の故障からまだ2日と経っていないのだ。
最短記録達成である。
そんな喜ばしくもなんともない記録を更新中の件の時計は、懸命に秒針を動かそうとしていた。
文字盤も、針もひしゃげているのに、健気なものである。
「はーやーとー?
もうダメか?直んないか?」
「ん...直すよ。
だって、それが俺の仕事だもん。」
少々悪いと思ったのか、竜から発せらた少しトーンが落ちた声を聞きながら、隼人が頭を上げた。
声と同じく、少々申し訳無さそうな顔をした竜の表情が目に入る。
その表情は、この店を訪れる人が必ずする、大切なものを失くした時の表情で。
その度に、隼人は、修理の依頼を受けるのだ。
完全に直らない時計も中にはある。
再び時を進めることはなくとも、思い出は形に残るから。
時計としての役割を果たさなくても、持ち主が笑顔で持ち帰れるように、丹精込めて修理をする。
それがこの店の理念であり、隼人が店主をしている理由だった。
「ね、竜。
約束して?」
「...何を?」
「この時計が直ったら、もう喧嘩が理由で壊さないで?」
「.........」
「竜にとって、この時計は大切なものなんでしょ?
だからいつも、壊れる度にここにくるんでしょ?
だったら、もう壊さないで?」
カウンター越しに、椅子に座った隼人が、立っている竜を見上げて一言一言ゆっくりと、真剣に言葉を紡いでいく。
喧嘩慣れしている竜を圧倒するほどの存在感が、隼人からひしひしと感じられて。
今、隼人が音にした言葉が、隼人の本音なんだと、竜に伝えていた。
「......時計...」
「ん?」
「...時計が、壊れなくても......ココ、来て良い...?」
「竜ちゃんならいつでも大歓迎だよ~。」
「!!!」
隼人から視線を外し、俯いた竜から微かに聞こえる程度の声が隼人の鼓膜を刺激する。
ぼそぼそと、ほとんど音に近い声を聞き届け、隼人は笑顔を形作った顔を竜に向けた。
途端に耳まで赤くなった竜は、勢いに任せて店を走り出て行く。
隼人のいるカウンターから店の扉まで歩いても6~7歩分しか距離はないのに、走り出ていくものだから、扉を開けた時に、盛大な音を立てて自分で開けた扉を額にぶつけていたが、それでも竜は元気に走り去っていった。
カラン、カラン...と、静寂の中、鐘が響く。
「......アレは、竜ちゃんからの熱烈な告白、と受け取っても、良いんだよね...?」
誰に聞かせるでもなく、呟かれた言葉は、音となって宙に溶け込んでいく。
窓から入る、夕暮れの赤が照らす室内に、隼人と、竜が置いていった壊れた時計だけが残された。
□-◇あとがき◇-□
...なんか、甘い...ですι
唯単に、「時計の修理職人×喧嘩番長」的なはやりゅを書きたかっただけなんですけど...(苦笑)
最終的にラブラブに突入しましたね~。
ホントはもっとフランクな感じに書きたかったんですが...
何だかなぁ?
とりあえず、書き終わって言えることは。
隼人さんの店に通う為に毎度毎度喧嘩の度に時計を壊してる乙女な竜さん。ってとこですかね?
あ、ちなみに。
隼人さんの店の名前、『Zeit』読みは「ツァイト」で、ドイツ語で「時」って意味です。
まんまですが、カッコよかったので(笑)